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金銀花

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《10》気持ちの変化



「落ち着いた?」
 
 千鶴が黙って香代を抱きしめていると、いつしか涙は収まっていた。

「……ごめんね」

「なんで謝る?」

「千鶴に、関係ないのにこんな話して……」

「俺は、香代の一番の友達だと思ってる。だから、関係なくなんかない」

 すると、千鶴は香代にじっとを見つめられた。

「……どうした?」

「かっこいいね」

「え?」

「男らしいわ、千鶴」

「……男じゃない」

 イヤなことを言われた千鶴は、香代に向ってお馴染みのセリフをイヤそうに言った。
すると、香代には笑顔が戻った。

「冗談よ。もう離してくれる?」

「あ、ごめん……」

 互いに離れると、香代は千鶴の顔を見ず寂しそうに言った。

「あのね、もうひとつ言わなきゃいけないことがあるの」

「なんだ?」

「お見合い、しなきゃいけなくなった」

 この言葉になぜか千鶴はドキッとした。

「香代が?」

「そう。姉上がいなくなったから、わたしがお婿さん取らないといけないんだって」

 男がいない水野家、長女がダメなら次女に役割が回ってくる。
すこし、心苦しくなった千鶴だったが香代にひとつだけ聞いた。

「見合いは何時だ?」

「……明日。でも、したくない。怖い」

 男とほとんど接触したことのない香代には、生まれて初めての見合いが怖かったようだ。
心の準備もない段階での見合い。
毎回何か言いがかりをつけて、断って逃げてばかりの千鶴とは訳が違う。

「千鶴、断ってばかりでも平気だったんでしょ? わたしも断る」

「……でも、俺とはちょっと事情が違うぞ」

「……そうなの?」

「あぁ。香代は後継ぎだ。将来必ず婿を取らないといけない」

「そうかもしれないけど……」

 あまり、押し付けるのはかわいそうと思った千鶴は香代を安心させようとした。

「まぁ、明日あった男と結婚ってなるわけじゃないんだから。気楽に行けばいいよ」

「わかった……」

「いつもの香代で行けばいい。取りつくろわずにさ」

「やってみる……」

 そしてその日は別れた。





 二日後の昼、香代はげっそりとして千鶴の前に現れた。

「どうした?」

「一昨日、三人とお見合いしてさっき二人とお見合いしたの。それで、お昼過ぎからはまた三人……」

「ちょっとやりすぎじゃないか?」

 娘に大量の見合いをさせる香代の父が、何を考えているのか疑問に思った。

「いっぱい候補が来てるらしくって……」

「そうか。で、いいやつ見つかった?」

 ちょっぴり悪戯心で聞いたところ、香代の機嫌が悪くなった。

「……人事だと思って」

「悪い。俺、やったことないからよくわからないんだ」

 すぐさま謝ると、疲れた香代は溜息をついた。
かわいそうに思った千鶴は、相談に乗ることにした。

「で、どうなんだ? 真面目な話」

「だめ、全然手ごたえ無い」

「そうか……」
 
 なぜか、いい男が見つかったという返事が返ってこないことに千鶴はホッとしていた。
しかし、すぐにその妙な気持を振り払った。
 一方、香代の顔は曇っていた。

「みんな、家の録と役職が気になるだけ。わたしなんかどうでもいいの」

「え?」

「父上とそういう話しかしてないの。わたしには、『趣味は?』しか聞かない」

 無理もなかった。突然録高、家格が上がった水野家。
ここぞとばかり、さまざまな家が眼をつけた。
 本当に娘はどうでもいい、家が仕事が欲しい男も中にはいるはずだった。

 しかし、千鶴は香代を元気付けた。

「そんなやつらばっかりじゃないって。そういう厄介なやつを見分けるために、いっぱい見合いしてるんじゃないのか?」

「そう?」

「あぁ。父上が、香代のこと考えてるんだって。だから、絶対イイヤツ出てくるって。
香代だけ見てくれる、イイヤツがさ」

「だといいけど……」

「じゃあ、頑張って。もう行かないと」

「うん」



 千鶴の変化はあまりなかったが、香代の気持ちは大きく変化し初めていた。
生まれて初めて、たくさんの男と顔を合わせ話をする。
 こんな男もあんな男もいるのだと毎回思う。しかし、心が動かない。
 いつしか、男の姿の千鶴と比較するようになった。
 千鶴だったらこう言う。千鶴だったら、こうしてくれる。そればかり。
見合い相手としゃべっていても、思うのは千鶴。
 一人部屋でボーっとしていてもいつの間にか、男の姿の千鶴を思い浮かべ、
今何しているのだろう、なに考えているのだろうと思いを馳せていた。
 
  


 次の日、香代は見合いがなかったので家を抜け出し、千鶴と会っていた。
その日、彼女にどうしても聞きたいことがあった。
 まずさりげなくこう聞いた。
 
「ねぇ、千鶴はやっぱり男の人嫌い?」

「もちろん。結婚なんかクソくらえだ」

「……女の子の方がいい?」

「あぁ。もちろん」

 どうしても聞きたかったことを、口にした。

「……どんな、女の子がいいの?」

「え?」
 
 驚いた顔で見られ、香代は怖気づいた。

「その、ただ聴いてみただけ……」

 聞きたかったにも関わらず、恥ずかしくなって言えなくなった。
しかし、千鶴はさらっと答えた。

「香代がいいかな」

 嬉しい言葉に、鼓動が速くなった香代だったが落ち着いてこう聞いた。

「……それって、友達だから?」

「それ以外に、なにがある?」


 兄助三郎のことを『鈍感、野暮』と言ってはいたが、事実千鶴も少し鈍感なところがあった。
香代の顔が赤らみ、何か物言いたげな様子に気づいていなかった。

「ううん、何でもない」
 
 香代は『女の子として香代が好き』という言葉を期待してしまった自分が少し怖くなった。
これ以上千鶴と話すとおかしくなりそうだったので、すぐに別れることにした。
 
 しかし、その時から香代の気持ちは収まるどころか激しくなった。
 その日の昼の見合いの間中、千鶴のことを考え上の空だったせいで父親に怒られた。
さらに、何かあるのではと疑いをかけられた。
 婿取りに躍起になる香代の父は、以前と違い香代に優しい顔を見せなくなっていた。
娘に幸せな結婚をと考えすぎたせいで焦り、香代を追い詰めつつあった。
 そんな父から逃れ、母親に助けを求めたが、さすがに母には気付かれた。

「香代、好きな人が居るんじゃないの?」

「えっ……」

「最近の様子を見たらわかるわ」

「…………」

「恥ずかしがらずに、父上に言いなさい。条件が揃えば婿にできるかもしれない」

「…………」

「貴女の一生のことよ。よく考えなさい。わたしも父上を説得してあげるから」

 やさしい母の言葉に、香代は自分の気持ちに向き合うことに決めた。





 次の日、香代は千鶴に会うや否やこう言った。

「千鶴、もうお見合いしたくない。今日一日逃げる」

「どうした? 珍しいな過激なこと言って」

「……もうイヤなの。疲れたの。もうたくさん!」
 
 あまり声を荒げないおとなしい香代が取り乱す様子に、千鶴は驚いた。
会うたびに、見合いが嫌だと駄々をこねる回数が増える彼女が気になった。
作品名:金銀花 作家名:喜世