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千日紅

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《09》 約束



早苗は鳥の声で眼が覚めた。

「朝か…」

そう言った声は低く、口調は男だった。
昨晩、男のままで美帆を抱き締めながら眠りについた事を思い出した。
その時、助三郎が顔を覗き込んだ。
まだ女のままだった。

「起きた?」

「あぁ……でもまだ眠い」

「寝てよ。今日も仕事無いんでしょ?」

「そうだった。出立までは休みだ」

「じゃあ昼まで寝よう」

そういうと、助三郎は早苗の隣に潜り込んだ。

「女に戻ろうか?」

「いい。そのままで」

「俺でいいのか?」

「格さんがいい。せっかくだから」




二人が布団の中でいちゃつく様子を千鶴が見ていた。
驚いた様子で走り去って行ったが、二人は気付かなかった。

「美帆」

「なに?格さん」

「本当に可愛いな。ずっと見てても飽きない」

「そう?」



結局、二人は昼まで布団の中にいた。
今まで、なぜしなかったのかと残念に思うほどに二人は幸せを感じていた。
本当の夫婦で過ごした時と同じような幸福な満ち足りた時間だった。
ただ、たわいもない話をして、突っつきあって、笑うだけだったが。

昼ごろ、やっと二人は布団を出て着替え、居間に向かった。
そこでは美佳が茶をすすり、千鶴は縫物をしていた。
あまりに遅い起床をたしなめられるのではと恐る恐る挨拶をした。

「……おはようございます」

しかし、美佳はとんでもないことを言い出した。

「まぁ、ご精が出ること。もう昼ですよ」

「へ?」

「……格之進。私は怒ってはいません。しかし、責任は取ってもらいますからね」

「はい?何のですか?」

「美帆のことです。子ができて、男に戻れなくなったらあなたの苗字を佐々木に変えますからね」

あまりに恥ずかしい事を言う母親に助三郎はくってかかった。

「母上、何もしてません!あたしは子を産めません!」

早苗も、弁明した。

「そうです。私も子を作れませんので」

すると、美佳は残念そうな顔をし、隣で一言もしゃべらず縫物を続ける娘を見た。

「あら、残念。千鶴が見たのは何だったのでしょうね」

「母上!言わないでください!」

顔が赤くなる妹に助三郎は詰め寄り、問いただした。

「言いなさい。千鶴!何を見たの!?」

「言いたくありません」

口を閉ざす千鶴に、早苗は穏やかに聞いた。

「千鶴ちゃん、怒らないから。…もしかして、覗いたのか?」

「……母上が、二人とも起きてこないと言ったので」

結局、自分で覗いたのではなく、美佳に言われて誤って見てしまったことが判明した。

「はぁ、義母上のせいか。とにかくもう覗くなよ…」

「はい」

「さぁ、お昼にしましょう」


食事の間も、夫婦二人はいちゃつきまくった。
母と、妹が見ている中、助三郎は早苗におかずを食べさせ始めた。

「あーんして」

「こうか?」

「どう、おいしい?」

「まぁまぁ」

「どうして?」

「美帆が作ってないから」

「もう!」


二人は男女逆転のまま、二人だけの幸せな世界に入ってしまった。 
ベタベタする逆転夫婦を前に、美佳は膳を持って逃げだした。
教育にも悪いと思ったのか、千鶴も一緒だった。

「……千鶴、あっちで食べましょう。目の毒です」

「……はい」




夕方、庭で早苗と助三郎は飼い犬のクロと遊んでいた。
二人がそろって久しぶりに遊んでくれたのがうれしかったようで、クロは大はじゃぎだった。
庭中走り回り、大きな声で吠え、ころころ転がって喜んでいた。

そこへ、お銀がやってきた。

「お二人さん、結婚おめでとう」

その言葉に、助三郎はそっぽを向いてしまった。
早苗は動じず、お銀に訊ねた。

「どうした? 何か用か?」

「格さんに用事。美帆ちゃん、ちょっと格さん借りるからね。クロ、お土産よ」

「ワン!」

彼女はクロに干し肉をあげると、早苗を連れ出した。


「なんだ?用事って?」

「そのままで美帆ちゃんといちゃついてたの?」

「……いいだろ別に」

「まぁいいわ。御隠居さまがお呼びよ。今すぐ来なさいって。職場じゃなくて、西山荘ね」

「わかった。すぐ行くから美帆に言ってくる」



助三郎は、おいしそうに干し肉をかじるクロを眺めていた。

「お銀なんだって?」

「御老公がお呼びだそうだ。ちょっと行ってくる」

「わかった。気をつけてね」

お見送りする助三郎を、お銀はまたもからかった。

「美帆ちゃん。旦那さんと今夜は一緒に寝られないかも知れないわよ。残念ね」

すると、すぐさま助三郎はお銀を睨みつけた。

「うるさい!寝られなくてもいい!旦那っていうな!」

そう言うと、庭の奥へ引っ込んでしまった。


「やっぱりダメね。格さんにしかニコニコしない」

「変だよな。可愛いからいいけど」

「ニヤけちゃって。男みたいよ」




西山荘に着くと、光圀は配下の後藤とともに座っていた。
早苗は、もしや仕事上の不都合でもあったのかと思い不安になった。

「何でございましょう?」

しかし、その心配は外れた。
光圀は満面の笑みを浮かべ、大きな声でこう言った。

「祝言の祝いに、皆で酒盛りじゃ!」

「は?」

呆れる早苗をよそに、同僚が次から次へと現れた。
凄い量の酒を持ち込み、飲みはじめた。
仕舞いには、早苗に絡んで来た。

「渥美、あの可愛い子を嫁に取ったか?案外やるのう」

「で、かわいがってやったか?寝不足か?」

早苗は嫌気がさし、主に助けを求めた。

「……御老公、助けてください」

しかし、光圀は酔っ払いスケベな男どもと同じ穴の狢だった。

「美帆は格之進のものになってしまったか。残念じゃのぅ」

「………」

呆れていると、もう一人早苗の正体をしる上司、後藤仲左衛門が現れた。
光圀よりもずっと真面目な彼に助けてもらおうと早苗は近寄った。
しかし、彼もまた酒が入っていたせいか言動がおかしかった。
大きな盃に酒をなみなみと注ぎ、早苗の前に差し出した。

「おい。渥美、お前が主役だ。祝いの酒だ。飲め!」

「後藤様、私は…」

「さぁ、一気に行け!」

「一気ですか?」

渋ると、近くで見ていた男達が早苗を挑発し始めた。

「なんだ? 飲めないのか?」

「後藤様直々の杯だ。飲まない奴があるか?」

「お前、それでも男か?」


無礼講の酒宴の中、真面目くさってももう意味はないと早苗は観念した。
皆があおる中、その盃を一息で空にした。

「どうです? 飲めるでしょう?」

すると、歓声が沸いた。

「おぉ。良い飲みっぷりだ。あっぱれ!」

同時に、男たちに火がついた。

「よし。若い者に負けてはおられん。飲み比べだ!」

「おう。やろうやろう!」

「やってやろうじゃないですか!負けませんよ!」

調子に乗った早苗はその挑戦を受けて立った。
先ほど使った大盃に酒を入れ、皆で飲みまわした。
飲んで飲んで飲みまくり、気付けば空は白け、どこかで鶏が鳴いていた。

「あ。もう朝か……どうです?私の…」

早苗は勝利宣言をしようとしたが、誰一人起きてはいなかった。
周りは潰れた男たちでいっぱいになっていた。
作品名:千日紅 作家名:喜世