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千日紅

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《06》 欲求不満



「……おはよう、美帆」

次の日の朝早く、若干やつれた様子の早苗が現れた。
無理に笑おうとしていたが、再び夜中に泣いたらしく、眼が腫れて痛々しかった。

「おはよう、早苗」

「あれ?美帆って言っても怒らないの?」

助三郎は怒りたくなくなっていた。
今の自分を助三郎として認めたくないが故に、早苗は自分のことを美帆と呼ぶのだと痛感していた。

「……どうしたの?元気ないね」

元気が助三郎よりない早苗にそう言われ、助三郎は苦しくなった。
すぐさま彼女に告げた。

「早苗、義父上のとこ行こ」

「そういえば、解毒剤のこと聞いてこないとね」

「ご飯食べたらすぐに行こ」



早苗と連れ出って橋野家へ赴いた。
恥ずかしかったが、助三郎は今の気持ちを打ち明けた。

「早苗、あのね、気持ち悪かったら言ってね」

「なに?」

「あたし、早苗が好きだから、妻として好きだから。いい?」

「で、格之進は男友達として好きなんでしょ?わかってる」

常日頃言っている言い訳、もはや陳腐化していた。
しかし、今は違う。はっきり言う必要があった。

「……その、男友達なんだけど、今ちょっと違うの」

言った途端、早苗が歩みを止め、目を丸くしていた。

「へ?…もしかして?」

怖かったが、意を決してはっきりと助三郎は口に出した。

「……好きみたい。……男の人として、格さんのこと」

「……」

あっけにとられた様子で黙りこくった早苗に驚き、助三郎は赤くなりながら焦っていた。

「ごめん!気持ち悪かったら言って!格さん、女嫌いだから、あたしもイヤでしょ?」

しかし、早苗は穏やかな表情に戻っていた。

「大丈夫、わたしも一緒」

「え?どういうこと?」

今度は、早苗が赤くなり、自身のことを告白した。
夫と同じ状況で安心したのか、包み隠さなかった。

「……格之進の時、美帆が女として好きみたい。今まで感じたことないことばっかりなの。
友達にも感じたことない気持ちでいっぱいで…… でも、これっておかしいのかな?」

「……どうだろ? ちょっと怖いから、義父上に聞いた方がいいかなって思って」

「そうだね。聞いて来ようか」


早苗の実家に着き、早速又兵衛に面会した。
二人で不安がった、変な気持を相談したところ、あっけない返事が返ってきて拍子抜けしてしまった。

「何も問題無いんですか!?」

「お前たち夫婦だからな。それに、仲が良すぎると言っても過言じゃない」



早苗は女なのに、男のような気持ちになるのが、少し恥ずかしく、怖かった。

「……でも父上、男みたいな感情になるのは?」

「男みたいって、助三郎がお前にすることしたくなるのか?」

「はい…」

「それはお前が男の姿だからだ」

「それだけですか?」

「男の姿なのに、女がしてもらいたいことを望んでも満たされないだろ?」

「はぁ?良くわかりません」

「まぁ、いい。深く考えるな。問題はないからな」


解決した早苗の問題の後で、助三郎も義父に打ち明けた。

「……あの、あたしの場合は?」

「助三郎は姿が女だからな。男の格之進に熱を上げてもおかしくないだろう。わしに似て良い男だからな」

「あの、女みたいな感情になるのは?」

「……それは、お前の欲求不満だろう?」

「えっ?」

「……旅に出てから今日まで、一度も早苗を抱いてないだろう?もう二月いや三月か?」

「……」

「かわいそうに。若いからもう死にそうだろ?」

「……」


「まぁ、互いに欲求不満を解消させたい本能だろうな。互いの姿が逆転したから、欲望の形も逆転した、そう思っておけ。まぁ、お互いに楽しめ。ハハハハ!」


「父上!そんなことより早く解毒剤を!まだできないのですか?」

耐えかねた早苗が父を睨んだ。

「……そうだった。悔しいが二度失敗した。まだ作り直しておる」

良く見ると、部屋の隅に紙の山が雪崩を起こしていた。

「父上、あれは調剤の覚書ですか?」

「ん?いや、あれは見合いと、婿と、嫁についての文だ」

「誰のです?」

「……格之進のだ」

「いまだに来るのですか?」

異常に格之進がモテるせいか、はたまた誰が流したかわからない噂のせいか、
『渥美格之進』の評判は上がる一方だった。
存在が水戸藩内に知られてから一年経ってはいないが、すさまじい評判だった。
仕事の帰り道に女の子に囲まれることや、恋文を渡されることは日常茶飯事になっていた。
そのせいで余計格之進の女嫌いというか、苦手意識は強くなっていった。

しかし、なぜか美帆だけには何ともない上に、異常な関心を抱いてしまう。
その状況が早苗を精神的に圧迫していたが、この日原因がわかりスッキリした。
もう何も怖くはなかった。

「格之進が結婚しないなら、家の婿になってくれだの、嫁を貰ってくれだのうるさい」

「面倒ですね。で、解毒剤は?」

どうでもいいもう一人の自分の見合い話などほかり、大事な夫を取り戻すための話が聞きたかった。

「平太郎を変えて、効果を何度か試したが、ダメだった。古文書を読み間違えたかな?資料が足りないのがいかんかな?」


早苗と助三郎は父親の話に気をとられた。

「あの、兄上を女に?」

「義父上、義兄上を女にしたら…」

「あいつは気にせんでも良い。橋野家の次期当主だ。血筋のおかげで早苗と同様、好きな時に変われる。しかもな、早苗より可愛い娘に変われるぞ」

「父上、わたしより可愛いは余計です!」

「良いだろ?格之進は平太郎より男前だ」


あまりにいい加減、理不尽な父がうっとおしくなった早苗だったが『姉』を見たいので、兄を探しに行った。

早速出仕前に居間で茶をすすっていた平太郎を見つけ、すがりついた。

「兄上!変わって下さい!」

「イヤだね。誰が変わるか!」

「貴方、変わってあげて。妹のお願いでしょう?」

優希枝も出てきて、一緒に頼んでくれた。
しかし、平太郎は思いっきり拒否した。

「イヤだ!俺は男だ!」

「平太郎、良いじゃないですか。かわいい妹がせっかく来たんだから」

母のふくまで悪乗りし始めた。

「イヤだったらイヤだ!」

あまりに拒絶する兄に落胆した早苗は義姉に話だけでも聞くことにした。

「義姉上、見たこと有りますか?」

「美帆ちゃんには負けるけど可愛いわよ。早苗さんに似ててね」

「そうそう。あなたより肉付き良くてね。もったいない」

ふくまで出てきて、『姉』の魅力を語ってくれたせいで、早苗はますます『姉』に会いたくなった。
しかし、平太郎は尚も抵抗した。

「うるさい。二人ともしゃべらなくていい!」

どうやら、兄は妻と母におもちゃにされたようだ。
精一杯抗っていたが、顔が強ばっていた。

「兄上。ちょっとでいいから…」

「イヤだ!俺はこれから仕事だ。そんな暇はない!」

「兄上のケチ!」


可愛い義妹のために優希枝は夫に頼みこんでくれた。

「平太郎さま…… お願い、変わって。ね?」

「優希枝…」

大切な妻の懇願で、平太郎はしぶしぶながら早苗の目の前で変わってくれた。
うわさ通りの自分に似た女が現れた。

「姉上?」
作品名:千日紅 作家名:喜世