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雪割草

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〈28〉ケンカ



尾張を過ぎ、東海道から外れ、伊勢の山の方へ向かう道のりを行くことになった。

晩、普段滅多に一行の宿には近寄らない弥七が早苗の元を訪れていた。


「これからしばらくは絶対にその姿と早苗さんの姿を行き来するのを見られないようにしてくだせい…。」

「…やっぱり、危ないのか?」

「ここからの山道には、伊賀者、甲賀者の残党がいる。秘術を知りたがる輩も…。お気をつけて。」

「…ありがとう。弥七。」

「あれ?格さん、弥七さんでしたか?おいらまだちゃんと挨拶してないのに…」

「普通に過ごしてたら、無理かもな。そうだ、お銀に頼んでみたらどうだ?」

「そうしてみます。」



山道は歩きにくかった。
しかし、近道するためには仕方がない。
涼しくて気持ちいいけど、心配なことが二つある。
弥七さんが言っていた忍びの残党と、もう一つは…


「きゃー!」

「ハハハ!怖いのか?由紀さん。」

「当たり前よ!きもちわるい…」

いきなり由紀がこっちに走って後ろに隠れた。

「どうした?」

「格さん!ほら。」

「…うっ」

心配なものが出てきてしまった。

毛虫。
木が茂っているところにはいっぱいいる…
木に葉っぱがある時期は絶対にいる…。

「由紀さんこれが怖いんだって。」

「どこが怖いんですか?かみつきませんよ。」

木の枝に変な色の毛虫がうごめいていた。
ぞっとする…

「頼むから…よしてくれ。…やめろ。」

ギャーッと叫んで逃げるのが今まで当たり前だったのに、この姿だと声が出なかった。


「え?…あ、格さんも、嫌いか?毛虫。」

「…それ持って、近寄らないでくれ。」

「そんなにきもちわるいか?」

「助さん!新助!やめなさい。かわいそうじゃ。いじめるでない。」

「はい…。」

「二人とも、あの子たちをいじめたらムカデやクモを着物の中に入れますからね。」

「気持ち悪い。それはいやだ。なぁ、新助。」

「はい。刺されたり噛まれますからね。」



「…早苗、よく耐えたわね。頑張ったわね。」

「…死ぬかと思った。」


「なぁ、格さん、何で怖いんだ?あんなの。」

「…お前のせいで毛虫嫌いになったんだ!」

「は?」

「あっ…いや、なんでもない。」

「ふうん。まぁいい。」

本当に助三郎さまのせい。
小さいとき毛虫を持って追い回されたのが原因で、
いまだに怖くて気持ち悪くてたまらない。


「怖いもの格さんにもあるんだな。ははは!」

「助さんだって、おばけが怖いんじゃないか。」

「あれは、怖いんじゃない。嫌いなだけだ。」





昼過ぎ、男二人は宿で暇を持て余していた。

「ご隠居って、為替の受け取りだけは格さんに行かせるんだな。」

「路銀は大切ですよ。だからじゃないですか?格さんに預けた方が安全…」

「どういう意味だ?」

「はは…。さぁ…。助さんだってお遣いいっぱい行ってるじゃないですか。」

「俺は藩への遣いばかりだ?あれは面倒なんだ。」

「そうなんですか?」

「この格好だとあやしまれてなかなか取り次いでくれん。」

「へぇ。」

「まぁ、帰りに寄り道できるのが楽しいけどな。」

「さすが助さん、抜け目がない。」


「それにしても暇だな…。お銀と、由紀さんは?」

「買い物してくるって言ってましたよ。」

「そうか…おなごは皆いないのか、格さんもいないっと。フフフ…」

「怖いですよ…なにたくらんでるんで?」

「いいことだ。耳かせ!」






早苗は為替の受け取りにお銀と由紀と女三人で行っていた。


「…どうしよう。」

「困ったわね。でもあと少しは持つんでしょ?」

「贅沢しなきゃね。」

「じゃあ、甘いものはお預けね。」

「そう。残念…。」

為替がまだ届いていなかった。
なのに、手持ちが少なくなっている。


今夜の宿代でせいいっぱいかも…。
こうなるんならもう少し節約して残しておくんだった。
ちょっと気が緩んで出費したのがいけなかったかな。

「ここが腕の見せ所よ。がんばってね。」

「はい。やって見せます!」

「でも早苗、ご飯抜きとか、野宿はやめてね。」

「それは大丈夫。お酒とか甘い物とか無駄なものを徹底的に省けばいいんだから。」

「さすが!将来家計が火の車にならなくて済みそうね。」

「さぁ、帰りましょ。早苗さん、ちょっと気になることがあるからわたしは別行動させてもらうわ。気をつけてね。」

「はい。お銀さんも。」



「ねぇ、人目につかない所ってどこかな?」

「あそこじゃない?あの、木の下の暗い所。」

「ちょっと待っててね。すぐ戻ってくるから。」

「え?」

「おまたせ。行くか。」

「なんで、隠れて変わるの?」

「危ないんだってさ、誰かに見られたら。弥七に言われた。」

「そうなの…。大変ね。」



夕方、早苗と由紀は宿に戻って来た。

「…ただいま戻りました。」


部屋に入ったとたんに嫌な光景が目に入った。



芸者を呼んで男どもがどんちゃん騒ぎをしていた。


なんで?
お金ないのに…
なんで助三郎さま、女の人と遊んでるの?
笑ってお酒飲んでるの?
なんで!?

「…一体何をやってるのですか!?」

「おや、早かったの。どうじゃ?格さんも…」

「そうだ!座ってお前も飲め!」

「結構です!助さん、新助、何やってくれたんだ!…お開きだ!お引き取りください!早く!!」

「なに怒ってる?せっかく…」

「…幾らだ?」

「えっと…二両かな。」

「払えんぞ…。びた一文払わんぞ。」

「お前、為替受け取りに行ったんじゃないのか?」

「行ったがまだ届いてなかった。」

「…」

「どうするつもりだ!金はないぞ!!」

「格さん、そんなに怒鳴らなくてもよい。落ち着きなさい。」

「そうだ、周りに迷惑だ!ははは!」


ほろ酔いの助三郎に早苗の堪忍袋の緒が切れた。


「…お前だろ?」

「え?」

「どうせお前が唆したんだろ!?ご隠居と新助を!」

「…人聞きが悪いだろ。」

「そうに決まってる!仕事中なのに浮かれて…」

「…仕事ってたまには息抜き必要だろ?いつも真剣にやってるから休みが必要なんだ!」

「俺が、真剣じゃないっていうのか!?」

「そうとは言ってない!だから…たまにはいいだろ?」

「何がだ!まともなことしろよ!女遊びが息抜きか!?情けない…」

「…男だからしかたないだろ。わからないやつだな。」

「何が男だからだ!わからないよ!わかりたくもない!人の気持ちも知らないで!」

「何だと!?何が、お前の気持ちだよ!仕事と金勘定ばかりで面白味のないやつだ!」

「どうせつまらない奴だよ!やっとわかったか!」

「あぁ、わかった。お前が女々しいやつだってこともな!」

「誰が女々しいだ!!」

「女が怖い。毛虫が怖い。女々しいにきまってる!」

「…もう一度言ってみろ。」

「殴れるもんなら殴ってみろ!え?」

知らないうちに胸ぐらをつかんでいた。
いけない、女とバレるのが怖くてつい…

「やめておく…。」

「ほら殴れない。意気地がないんだな。ハハハ。」
作品名:雪割草 作家名:喜世