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雪割草

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〈27〉桶狭間



「で、何するんだ?」

「肝試ししようと思ってな。」

「どこで?」

「桶狭間。」

そういえば桶狭間の戦いがあった場所って東海道沿いにあったんだっけ。
たしか、泊めてもらった家の人も近くに有るって言ってた。


「で、ついでに何が残ってるのか調べてくる。一応仕事でもあるな。」

一応お仕事の、資料集めはしてるんだ。
見なおしたな。






「なんか気味悪くないですか?」

「もしかして、怖いのか?」

小さい時から幽霊とか怖くはなかった。
しょっちゅう見えていた。
兄上も見えてたし、父上も見えてた。何も違和感はなかった。


「そんなことないですよ。ねえ、助さん。」

「ん?ああ。ちっともこわくなんかない。」

「…あっ。何かあそこにいるぞ!」
助三郎がいきなり声をあげた。

「えっ?!」
新助がしがみついてきた。

「臆病だな。お前。」

からかって笑っている。

「助さん!新助がかわいそうだろ。大丈夫か?」

突然、ギャーっという変な音が聞こえた。

「あれ?なんだ、カラスか。」

新助が大丈夫か確認しようとしたが、今度は助三郎がいないことに気が付いた。
しかし両袖でがやけに重い。

「…助さん。結局お前も怖いのか?」」

新助と一緒にしがみついていた。
情けない…

「そんな怖がってるのに、どうしてここまでして来ようとした?」

「怖いけど、興味はあるからな…古戦場に。それに明日出立だろ?来られないだろ?」

「仕事熱心なことで。」

「なんだ?けなしてるのか?」

「いや。それより、助さん、聞いてもいいか?なんで怖い?」

なんか、わたしが原因な気がする。

「…子どもの時にいろいろ聞かされたから苦手なんだ。」

「助さん。何をです?」

「あそこに女の人が立ってるとか、首のない侍が見えるとか…。子どもがこっちを見てるとか…。」

「そんなこと、誰に聞いたんで?」

「早苗だ…。あと義兄上。」

やっぱり、わたしのせいか…

「本当に怖いぞ。ガキの時、何もないところに向かって手を振ってたことあったからな…。」

「…すごい人ですね。助さんの許嫁。」

助三郎さま怖かったんだ…。
でも、見えるものは仕方がない。

「ごめんな、助三郎…。」

「なんで格さんが謝る?」

「なんでもない。実は…俺も見えるぞ…。」

「えっ?うそだろ?」

「平家の落人みたいなの、いっぱい見たぞ。
あと、浜松通った時、落武者がうじゃうじゃいた。
あれは三方ヶ原の戦いの徳川方か織田方じゃないかな。」

ほんとに見えた。心の中で合掌しておいた。

「やめてくれ…。こんな暗いとこでそういう話はよしてくれ。」

「格さん、ここにはなんにもいないですよね?」

「今のところはな…だが桶狭間だからな…戦場跡だし…」

さっきから何かを感じるがそれがなにか解らない。



二人が落ち着いたところで何が残っているのか見回していた。

「特に何もないな。殺風景だ。ほんとに戦があったのか?」

「助さん、桶狭間の戦いって、なんでしたっけ?」

「お前、三河にいたのに知らないのか?」

「なんでですか?」

「まぁいい。桶狭間はな、尾張の織田信長公と駿河の今川義元公が戦ったんだ。」

「あぁ。思い出した!それで今川義元が負けて、徳川家康が人質じゃなくなったんだ。」

「よくできたな。ほめてやろう。」



「すみません…。」
いきなり女が現れた。

「うわっ」

「ひっ!」

男二人はそうとうこわがっている。
またもしがみついてきた。

「どうされました?」

「すみませんが、そこのお寺の方までついて来てくれませんか?」
綺麗だがどこか淋しげな女の人だった。

「よろしいですよ。」

びびっていたはずの助三郎が平然と答えていた。
また…女と見るとすぐこれ。嫌になってくる。

「助さん!」

「いいじゃないか、付いていこう。なぁ新助?」

「行くんですか?怖いなぁ…」

「先に帰っていいぞ。」

「嫌です!そっちのほうが怖い。」



「あの、お聞きしてもよろしいですか?お寺までなぜこんな時間に?」

なにか違和感を感じる。何だろう?

「お参りをしたいとおもいまして…」

「お墓ですか?」

「いえ、墓ではありません。」

「そうですか。夜遅くに?」

「はい、あまり見られたくないので。」

やっぱりおかしい。何かがおかしい。
悪い人には全く見えない。
でも、なにか違う雰囲気がする。
何かわからない雰囲気が。



「今川義元って残念な人ですよね。」

「そうだな。あと一歩ってところで信長公に倒されたんだからな。まぁ東照権現様を人質に取ってたやつだからいなくなって良かったんだがな。」

「悪者ですね。」

「そうかもな。」

その話を聞いていた女の人の表情が曇った。

この男どもはこういう考えなのか。でもわたしは違う。

「あのさ。負けたやつを見境なく悪者に仕立て上げるのもどうかと思うぞ。
元は皆同じ人間だ。」

「え?」

「みんな明智光秀や石田三成を馬鹿にするだろ?負けたこと失敗したことばかり指摘して。可哀想だと思わないか?」

「そうかもな。そう言われてみれば二人とも良い所はたくさんある。」

「それに、戦に勝ったやつが偉いとは思わない。戦を起こす時点でそいつは悪者だ。
男どもがなんで覇を争いたいのか俺には良くわからない。
馬鹿げた戦でいちばん苦しむのは女と子どもだ。弱いものだ。
偉い人間っていうのは弱いものを助けるやつじゃないのか?」

「そうだな。良いこと言うな格さん。」

そうこう話している間に突然女の人が立ち止まった。

「申し訳ありませんが、ここからはあなただけついてきていただけませんか?」

早苗が指名を受けた。

「私ですか?」

「はい。」

「助さん、新助。その辺で待っててくれるか?」

「え?置いてくのかよ!?やめてくれよ。」

「…大丈夫です。…何も来ませんから。」

「すぐ帰ってくるから。怖くないだろ?二人なんだから。」

「わかった…気をつけろよ。」


女の人は黙ったまま奥へと進んでいった。
違和感、異様な雰囲気はますます強くなっていく。

「すみませんが、なぜ私なんですか?」

「…貴方は怖がらなかった。私のことを。」

「あの二人は怖がりですからね。すみません。」

「…それと、わかってくれる方だと思ったのです。」

「え?」

「…あの人のことを。」
知らないうちに女の人の服装、髪型が一昔前の身分が高い人の物に変化していた。

「あの人とは?」
女の人の視線の先に身分の高そうな武将の姿があった。

桶狭間に武将…もしや…

「失礼ですが…貴方は、今川義元公ですか?」

「…そうだ。」

「では貴女は?」

「…妻です。」


やっぱり、この世の人じゃなかった。

「…その方、男の成りをしておるが女だな?本当の名は?」

「お気付きですか?早苗と申します。」

「…早苗、かたじけない。少しだが救われた。この百有余年人々に蔑まれ、侮辱されつづけた。そなたのような者がいて良かった。」

「いえ…滅相もありません。」

「そなた、この土地のものではないな?」
作品名:雪割草 作家名:喜世