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雪割草

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〈44〉紀州を後に



外で鳥の声がする。
もう朝か、そろそろ起きないと。

早苗の眼にまず入ってきたのは助三郎の顔だった。

「よう、起きたか?」

「うわっ!」

顔が近かった…。
ドキドキが止まらない。

「何をそんなに驚く?」

「べっ、別に…びっくり、しただけだ…。」

寝起きにあんなに近ければびっくりするに決まってる。

「よし!目も覚めた事だし。朝飯前にちょっと身体でも動かそう!」

「えっ?朝から?」

「もちろん!」

言うや否や着替え始めた。

やだ…目の前でしないでよ。
脱がないでよ!
目のやり場に困る…。

「何、赤くなってる?」

「なんでもない!」

「だったら庭に出ろ!」

やる気が異常な気がする…。
でも、わたしまだ起きたばっかりなのに。

「…着替えてからだ。」

「あれ、まだお前寝間着だったのか?」

「着替えられるわけがないだろ?」

いろんな意味で着替えなんかできない。

「じゃあ、早く着換えろ。」

そういうと助三郎はその場に座り込んで早苗を見ていた。

なんで!?なんで見てるの?

「…どうした?」

「いや、ちょっと…その、なんだ?あの…」

「はぁ?言いたいことあるなら言えよ。」

「…向こう向いててくれないか?」

「…なんで?」

「…見られてるとなんか…その…」

「恥ずかしいのか?」

「…」

普通の男は平気なんだろうけど…
いまだに慣れない今の自分の裸見るのイヤ。
見られるのイヤ。

「…そういえばお前いつもどこで着替えてた?見たこと無いぞ。」

「…そうか?気のせいじゃないか?」

早苗はいつも朝早く起きて、隠れて元の姿に戻ってから着替えていた。
姿を変えると着物も勝手に変わってくれるから、男のままで脱がなくていいのがうれしい。
だから、助三郎が見るはずがない。
今日はちょっと起きるのが遅かった…不覚。
二人きりでうれしかったけど、こんな危ない時に誰も助けてくれない。
どんな言い訳しよう…。
なんかないかな?

考えているうちに助三郎がしびれを切らしたようだ。

「まぁ、良いじゃないか。男同士なんだし。俺はそういう趣味はない。変な事しないから。」

「そういう趣味って?変な事って?なにする気だ?」

「そんなこと人に聞くなよ!先に庭に出てるからゆっくり着替えろ。な?」
そう言い残すと逃げるように部屋を出て行った。

はぁ、やっと出てってくれた。これで着替えられる。



一通り身なりを整え、庭に出ると助三郎が素振りをして待っていてくれていた。

「助三郎、待たせたな。」

「おう、終わったか?」

「ありがとう、ゆっくり着替えられた。」
鈍感なのにちょっと気を使ってくれたのが早苗にはとてもうれしかった。

「その笑顔女の子に見せればイチコロだと思うがな。
お前の好きな人がそれでなびかないのが不思議だ。」

この姿のまま女の子に笑いかけると、間違いなく叫ぶ。
でも、この人は何の反応も示してくれない。
男同士だから当たり前かな…。


「まぁ、女はよくわからん。さて、無駄話はこれぐらいにしてと…。
格之進!どこからでもかかってこい!」



早朝鍛錬で思いっきり体を動かして目が覚めた。
助三郎も同じように感じていたようだ。

「はぁ…すっきりした!」

「なんか、溜まってたか、助さん?」

やけに暴れていた気がする。何か鬱憤を晴らすというか、何というか…。

「お前もわかるだろ?男はいろいろある。そういうことだ。」

「はぁ…そういう事な!…???」
適当に合わせておいた。




朝食後、朝のご機嫌伺いに城にいる光圀に会いに行った。

「おはようございます。」

「うむ。おはよう。さっそくで申し訳ないが。今すぐ発ちたい。」

いきなりの発言に二人は驚いた。

「は!?今からですか?」

「イヤなんじゃ。城の接待がうっとおしくての。」

「お待ちください。せめて明日の朝にしてください。支度が間に合いません。
由紀さんと新助に知らせなければいけませんし。なぁ?格之進。」

「はい。路銀の受け取りもあります。少しの猶予を。」

「わかった。では、城を抜けたい。ダメかの?」

「どこへ行く気です?」

「お前さんらの泊ってる屋敷じゃ。三人でいた方が面白いからの。」

面白いって…。ありがたいお言葉だけど。無理なものは無理。

「ダメです。城が大騒ぎになります。いけません。」

「…さては二人でいちゃいちゃしておるのか?」

「何を言っておられるのです?」

「助三郎、正直に申せ。もしもの場合は橋野に言うからの。」

「は?なんで義父上におっしゃるんです?」

「…御老公、余計なことはおっしゃらないでください!おとなしく城にいてくださいね!」

御老公さまも言ってほしくないことをぬけぬけと!
わたしだってできるものなら助三郎さまとイチャイチャしてみたいのに。

結局光圀は城に残ることを拒み、明日早朝の出立になってしまった。
その支度をするため、早苗と助三郎は早々に城を退出した。

「格之進、俺は新助探してくる。由紀さんに一応連絡はしといてくれ。」

「わかった。じゃあ、後でな。」


由紀を訪ねて行くと思ったとおり、人目を構わずイチャイチャしていた。

「由紀、俺たちは明日の朝出立する。二人でゆっくり過ごせよ。」

「じゃあ、今から支度するわね。」

「え?与兵衛様と一緒に帰ってくればいいじゃないか。俺らはどんな道のりとるか分からんぞ。」

「だって、早苗が心配。不安でしょ?」

「まぁ…」

助三郎さまに黙ってることが怖いのと、バレるのが怖い。
さらに言うと、千代ちゃんの予言が怖い。
『仲間が増える』っていうのは当たってた。
わたしと助三郎さまに『よくないことが起きる』っていって、すでに一回大喧嘩した。
これから何かもっと大きなことが起こるかもしれない。

「それにね、与兵衛さまもいいっていってくれたから。一緒に行くわ。」

「良いんですか?八嶋殿。」

「由紀をお願いしますね。渥美殿、行かれる前にお話いいですか?」

「はい。」


由紀に外してもらい、二人で話をした。

「由紀から聞きました。あなたはお友達の早苗さんだと。」

「本当に信じるんですか?」

「はい。あの、戻ることはできますか?」

「…このような者です。」

「ほう…お美しい。」

お世辞とは言え、ちょっと恥ずかしくなった。
今まで助三郎に言われたことなかった。

「そういうことは、由紀に言ってあげてください。」

「はい。…しかし、佐々木殿はかわいそうですね。あなたのお顔が見られなくて。」

「そうでしょうか?」

「もちろんです。会えないとさびしくてたまらない。苦しくなってくる。長ければ長いほど想いが募る。男はそういうものです。」

「でも、浮気したくなるんじゃ?」

現に、城で手を振って喜んでた。
屋敷の女中に声かけて喜んでた。

「そういう男もいます。男は情けない生き物ですから。でも、佐々木殿を信じてあげてください。貴女が信じてあげなくて、誰が信じるんです?」

「そうですね…。努力してみます。」
疑ったらいけないんだ。好きな人を疑うなんて悲しいこと。

作品名:雪割草 作家名:喜世