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われてもすえに…

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そこで止まるのかと思いきや、御堀の上に掛けられている橋を渡り、城の人目につかない木がうっそうと茂っているところへ入って行った。

「まだ?」

「あと少しだ」

突然、前の政信が歩みを止めた。
前を見ると、屋敷の中にたくさんの女中やもっと身分が高そうな女の人達が見えた。
それらが忙しそうに歩きまわり、騒がしくしている様子が良くわかった。

「政信殿!どこにおられます!」

「あっ、浮船様、若様はどこにもおられません」

「どこへ行ったのやら……。それにしてもあの小姓は何をしておるのじゃ!はよう探すように申せ!」

「はい」



小太郎ははっきりと聞いた。
『浮船』と呼ばれたお局様のような女が、『政信殿』と呼ぶのを。
しかも、下女が『若様』と呼ぶのもしっかりと耳に入ってきた。
恐る恐る目の前の男の背中に向って尋ねた。

「……政信って、若様だったの?」

彼は振り向かずに、ぼそっと呟いた。

「……キライになったか?」

「……なんで?」

悲しそうに彼は話し始めた。

「……畏れ多いとかなんとか言って、顔も見てくれない奴らばっかりだ。みんな俺のご機嫌伺いばかり、腹の中で俺のことが嫌いでも、表はニコニコ笑っている。我慢できない……」

「……」

何も返す言葉を見つけられなかった小太郎は黙りこくっていた。
そんな様子に気付いたのか、政信は一言言った。

「……いったん、出よう」


小太郎を前にして、政信は申し訳なさそうに言った。

「……黙ってて悪かったと思う」

「別に、怒ってなんかいませんよ。驚いたけど」

小太郎は思った通りのことを告げた。
しかし、眼の前の政信はひどく悲しそうな顔をしていた。

「……やっぱりお前も話し方変えるのか?」

「だって、政信の方が八つも年上でしょ?やっぱり年下が生意気じゃ……」

何も考えずつい口を滑らせた。
驚いてしゃべるのをやめたが、気付かれてた。

「は?お前十八じゃないのか?」

「あっ、何でもないです。……ちゃんと喋らないと、周りの人に怒られるでしょう?
俺、それでいつも怒られるから」

必死に弁解を図った。

「それも、そうだな。……ガキみたいなしゃべり方は特にな」

小太郎は『ガキ』とわれ腹が立った。
やっと、ここ数日で子どもと言われなくなって喜んでいた矢先だったので怒りは大きかった。

「俺はガキじゃない!……あ、ないです!」

身分がずいぶん上の若様に向って、怒鳴ってしまった無礼にもかかわらず、政信は喜んでいた。

「やっぱりお前の態度は変わってない。良かった……」

「あの……。呼び捨てもダメだと思うから……。なんて呼べば良いですか?」

「なんでもいいぞ。『若様』以外なら」

「じゃあ、『殿』はどうです?」

「うん、気に入った。それでいこう」


うるさい女中がイヤだと政信が言ったので、屋敷には入らず、外に二人で座り込んでたわいもない話に没頭していた。


「お前、仕官してるか?」

「いいえ。家にいます」

「……そうだよな。俺と遊んでたもんな。家の跡継ぎか?」

「はい。一応、長男なんで」

しばらく考え込んでいた政信は、小太郎に一つ話を持ちかけた。

「……お前、俺の小姓になる気はないか?」

「小姓ってなにするんですか?」

「俺の遊び相手みたいなもんだ」

「……ふぅん。別にかまいませんよ。少しの間なら」

この時、小太郎は深く考えていなかった。
小姓には家や政の問題が関わってくるとは一切頭になかった。
言葉通り、『遊び相手』だと認識していた。

「良いのか?」

「うん、じゃなかったはい」

「やった!ありがとうな!実を言うと、一人来たんだが、堅物でつまらないんだ。
お前が来てくれるなら楽しい!」

「そうですか?良かった」

「近いうちに手筈は整えておくから、よろしくな!」

「わかりました」

母を説得する必要があるなと思いながら、小太郎は家に帰ることにした。
しかし、歩きだすとすぐ彼は政信に呼び止められた。

「そうだ、良鷹、苗字はなんだったっけ?」

「瀬川です」

「瀬川?……もしかしたら、瀬川良武の縁者か?」

「……え、はい、そうです」

この時、なぜ政信が自分の父の名を知っていたのか小太郎は気がつかなかった。

「わかった。ありがとな!じゃあ!」

作品名:われてもすえに… 作家名:喜世