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母から私 私から娘へと ~悲しみの連鎖~

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 考えてみれば、初めて徹さんに会ったのは私が入院する少し前の、正月を間近に控えた暮れのことだった。その頃の私は、体調は悪いけど働かないわけにもいかず、かといって近くのどこかに就職しても、どうせすぐに入院しなければならない状態。そんな身体で雇ってもらっても、返って迷惑を掛けることになる。ましてや地元では……ということで、自宅から電車でも一時間半は掛かる、少し離れた基地のある街で働いていた。
 その店へは新聞の募集広告を見て面接に行った。そこには寮があり、身の回りの物だけ持って行けば良かったし、夜の仕事だったから昼間は菜緒と一緒にいて、夜、菜緒が寝ている間だけベビーシッターを頼むことができるから好都合だった。
まだ若かった私は難なく面接に受かり、早々に荷物をまとめてその寮に入った。

 全く新しい生活のリズムがスタートした。
 体調は良くはなかったけど、少しでも働いて入院費を作る必要もあった。
 以前、典くんと一緒にいた時にスナックで働いた経験はあったけど、お客さんと自分との間にカウンターがあるのとないのとでは、雲泥の差があった。
 その店は、当時ミニクラブと呼ばれる店で、店内は暗く怪しい雰囲気も漂っていたが、実際に働いてみると、そこで働く店の娘たちはみんな気のいい人たちばかりだったので、心配するほどではなかった。しかし私にとっては、やはり苦手な部類の仕事だったかも知れない。指名を取らなければならなかったし、週に一度は同伴日もあったりした。ところが、漸く指名してくれるお客さんができた頃には辞めて入院しなければならない。わずか二ヶ月の勤めだった。
 ちょうどそこで働いている時に初めて、徹さんは私に会いにやって来た。
 年の暮れだった。悪いことに徹さんがやって来たその日、私は熱を出して寝込んでしまっていた。そして次の日には実家に帰ることになっていたのに……。
 熱に浮かされながらも私が、
「実家に帰らなくちゃぁ……」
 と繰り返し言うので、徹さんは考えた末にタクシーを呼んでくれた。そして私を抱きかかえるようにしてタクシーに乗せ、菜緒も連れて一緒に実家に行ってくれた。一時間半もの距離のタクシー料金は、きっと万札が必要だったと思うが、徹さんはそのことについては、一切その後も口にすることはなかった。