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帯に短し、襷に流し

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付け下げと訪問着



 十年一昔というから、二昔前。と、いうかといえば、そこまで行くと四半世紀というのですね。
 一枚仕立てるなら、付け下げ。と、言われていましたが、現在、付け下げを仕立てるなら、訪問着、と、時代は変わってきているようです。
 訪問着は派手すぎて、パーティなどにしか着ていけず、付け下げなら入卒式、内祝い、ちょっとしたパーティなど汎用性があるといわれたものですが、現在は、入学、卒業と、お母さんが主役ですか!? と、目を疑うような派手な訪問着をお勧めになる、呉服屋さんが増えているようです。

 話を戻して。付け下げと訪問着。
 何が違うかといえば、それは、染めの段階まで遡るのです。
 付け下げ、と、いうのは、反物の状態で、お袖、身頃、衿衽(えりおくみ)と『墨打ち』という印を付けていきます。お袖や身頃には肩山にも鉤型の墨打ちが入ります。
 これを頼りに、柄を置いていきます。染め上がりは反物状なので、その販売になります。
 訪問着とは、まず、染めていない白生地を、お袖、身頃、衿、衽とばらばらにして、仮絵羽に仕立てます。その後、柄を書いていきます。
 着物の形になっているものに柄を置いていくことになるので、繊細で細かい柄合わせの、壮大な柄付けが可能になります。
 すでに着物の形になって柄を描いていくので、染めの段階で解き、染め上がってから、また、その柄を見せるために、仮絵羽に仕立てます。
 簡単に言うと、付け下げは反物上に染め上げたもの。訪問着は着物に柄付けしたもの。と、なります。

 さて。
 着物業界というのは、いろんなものが不透明で、値段があってないようなものです。
 賢い者もいたもので、付け下げで染め上がってきたものを、墨打ち通りに切り離し、わざわざ仮絵羽に仕立て直して、

 「訪問着でございます」

 と、販売しているものもあります。
 また、最近の印刷技術の発達で、かなり、複雑な柄も、インクジェット印刷にかけると、反物のまま、染め上がってきます。
 それをそのまま、付け下げです、と、販売しているものもあります。
 つまり、付け下げと訪問着というのは、現在のところ、見分けが付きません。
 よく、簡単に見分ける方法を教えてください、と、言われますが、そんなご無体な。と、言うことにしています。

 とはいえ、付け下げと訪問着は、仕立て代が違います。
 昔は、そんな感じで、付け下げは、ごく簡単なとび柄や、裾の何箇所ぐらいの柄合わせでしたが、今は、訪問着で衽に松の枝一本のみ。とか、付け下げなのに、裄付けまでにも柄がありますよ。など、一般的な分類ではお値段が付きません。
 最悪、柄合わせのない訪問着。そう柄合わせの付け下げ。などもあるのです。

 仕立て屋の見分け方として、柄あわせの有無があります。
 掛衿、四裾に柄が合う場合で、八掛が表生地とは違う、ぼかしの染めであったら、これは付け下げ。
 掛衿、四裾に、お袖付けに柄が合う場合で、八掛が表生地と同じ共布であったら、これは訪問着。
 掛衿、四裾に柄が合って、八掛が表生地と同じ共布であったら、訪問着。
 四裾のみ柄が合って、胸、袖に柄の合わない飛び柄があり、八掛が共布であったら、これは、付け下げ。
 そのほか、細かい相違点があり、その都度、仕立て代は見直されますが、一般的な呉服屋さんは、十把一絡げにしてしまう傾向があるので、難しいところです。

 呉服屋によっては、八掛を、表生地と同じものを使っている共八掛なら、柄に関係なく、訪問着。と、しているところもあります。
 昔は、間違いではなかったのですが、今は、微妙なところです。

 さらには、付け下げ訪問着、という、付け下げなんだか訪問着だか分からないようなものもあります。
 総柄で柄に上下があり、肩に行くほど殆んど小紋のような感じではありますが、裾は柄合わせのあるものです。
 これは、訪問着、と、名はついていますが、小紋としての格になると思います。が。
 柄自体が、大変派手な雰囲気ですので、小紋としての着用は難しいです。だからといって、訪問着として、パーティなどの華やかなシーンで着用していいかというと、それでは見劣りがします。
 こんな複雑なものを、どうして作ったのか、大変、疑問なところがあります。
 
 格などを気にし始めると、気後れしてしまいますが、昔は普段着だったのです。
 本来は、難しくないものですから、楽しんでいただけると、仕立て屋としてはうれしい限りです。


 2014.9.17 晴れ。
作品名:帯に短し、襷に流し 作家名:紅絹