小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
ナガイアツコ
ナガイアツコ
novelistID. 38691
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

長方形な文章

INDEX|1ページ/1ページ|

 
焼き鳥屋さんのカウンターでひとり、
焼酎を片手にぐったりとしていたら、
頼んでもいない軟骨の唐揚げ一串が、
私の目の前に差し出されたのだった。
私がきょとんと目を丸くしていると、
お店のおじさんが店の奥を指差した。
あちらのお客様からですと彼は言う。
見ると奥の方の席で一人座っている、
白髪でもじゃもじゃ髭のおじさんが、
ニコニコしながら手招きをしている。
私は焼酎の入ったグラスを手にして、
おじさんの座るテーブルへ移動した。
私が座るや否やおじさんは笑い顔で、

本物の三角形を君に見せてあげよう。

そう言ってそっと手のひらを広げた。
現れ出たのは完璧な三角形であった。
なにが完璧なのかよく分からないが、
とにかく全ての三角形を代表すべき、
非の打ち所のない三角形だったのだ。

これこそが三角形のイデアなんじゃ。

おじさんは得意げに笑みを浮かべる。
そして彼は三角形を私に渡して言う。

この三角形を絶えず持ち歩くといい。
そうすればいつだって真実に合った、
論理的思考が出来るようになるから。

手わたされた三角形は私の手の中で、
きらっきらっと安っぽい光を放った。

おじさんの名前はもしかして・・と、
顔を上げて質問したときにはすでに、
おじさんの姿は消えてしまっており、
飲みかけのグラスだけがちょこんと、
空っぽのお皿とともに残されていた。
私は三角形を右手に握りしめたまま、
お勘定を済ましてお店をあとにした。
外はひんやりして気持ちがよかった。
夜空を見上げると月が浮かんでいた。
何故だかいつもより月らしく見える。
うまく言えないが月としての存在感、
そんなものをいつもより発している。
なんだかへんな感じだなと思いつつ、
駐輪場で自分の自転車を探し始めた。
ところがなかなか見つからないのだ。
すべての自転車が同じように見える。
どれもが「自転車」らしさを目一杯、
私に向かってアピールしているのだ。
私はいったん三角形を地面において、
もう一度自分の自転車を探し始めた。
今度は簡単に見つけることができた。
私は自転車を見失わないよう注意し、
地面に置いておいた三角形を拾った。

自転車のペダルをこいで夜道を進む。

同じカテゴリーに属するものたちが、
全く同じ形で完璧な世界を構成する。
なんとも不思議で素晴らしき世界が、
個人的知覚を越えて繰り広げられる。

イデア界って本当に存在したんだね、
おじさん、私はこの世界を信じるよ。

論文の執筆作業が思い通りに進まず、
ぐちゃぐちゃしている私の頭の中も、
これで大分すっきりするに違いない。
そんな淡い期待を心の奥に抱きつつ、
きーこきーこと自転車をこぎ続ける、
九月初旬の涼しい夜の帰り道だった。

作品名:長方形な文章 作家名:ナガイアツコ