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夏の朝

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ムッとするような暑さを扇風機がかき回す音がブンブンと聞こえる。連日の寝不足で体力を余計に削られながら仕事をしていた僕は瞼を開けることが非常に億劫になっていた。
――このまま一日寝ているか
頭の中でもやもやとだらけたことを考えていると古いテクノのワンフレーズが繰り返されていることに気付いた。
なけなしの力を振り絞って起き、放り出していた携帯を掴む。
「はい、もしもし?」
画面に表示された名前をチラリと見てムリヤリ仕事の時の声を作って電話に出る。
「…あのう……すいません…ゴホッ」
携帯の画面に表示されていた名前は昨日、僕の所属する会社から来た新人だった。
まだ若い娘で別業種からの転職組。この現場は初めての現場だと言っていた。
「もしもし?もしもし?」
こっちの声が聞こえないらしく、何度も問いかけを繰り返す彼女。
ふと左側に目をやると扇風機がブンブンと音を立てている。この音が五月蝿くて聞こえないのだろうと思い、扇風機のスイッチを切る。
途端、ムッとするような暑さが肌に纏わりついてきてぬるい風でも無いよりマシなのだと気付く。
携帯越しに聞こえる弱弱しい声で彼女が言うには、体調が悪くて途中の駅の医務室で休んでいて、少し良くなったのでこれから就業先に向かうとのこと。
彼女の事情説明を聞きながら『翌日にこれかあ、まいったなあ。』と、渋い気持ちになる。
彼女以前にも僕の同期が登校拒否ならぬ出社拒否のような状態になり、殆ど出社せずに辞めてしまったことが過去にあるのだ。
『ウチの会社から来るやつは就業先に来ないとか言われそうだよ。』月曜日のことを想像して憂鬱な気分になる。
以前、僕が所属していたチームのリーダーが僕の同期の件で悩まされたように、僕も悩まされそうだとさらに憂鬱な気分がさらに倍増してしまった。
いまココで悪い想像して憂鬱になっている僕も、アレコレと思い悩んで遅刻や休みがちになった時期があったのだ。
今は責任有る立場なので遅刻や休みがちになることは無いが、確実に毎日神経磨り減りそうな予感がして何も考えたくなくなってしまう。
彼女から今の体調と就業先に連絡していないことを聞き出して、とにかく就業先に向かうことと何かあったらまた連絡するように指示して電話を切る。
そのまま就業先に電話をして上長に事情を説明する。さらに続けて所属会社にも電話をするが、就業開始時刻が09:30と言うことも有って誰も出ない。
「ちっ、役に立たないな…」
取締役連中に掛ければ良いのだが電話に出ないことが多く、運良く出たとしても長話になるのでなるべく掛けたくない。
最後に就業先担当の営業に電話をする。
「おつかれさまです、飯嶋です。今電話よろしいですか?」
まずは新人の彼女が体調不良で遅刻することを報告。ついでにその彼女が持病を持っていないか確認した。
「そういえば、面接の時に何か持病があるとか言ってたなあ?深くは突っ込まなかったけど。」
暢気に重要なことを告白する営業。そう言うことは先に言っておいてくれよと心のなかで思いつつ、現状を伝えて何か進捗あったら連絡することにして電話を切る。
連続で一気に電話を終えたらすっかり目が覚めてしまっていた。多少…いや、だいぶ体がだるいが、朝飯でも食うか?と言う気分になり、実際腹が減っていることに気付く。
――どうせまた何か連絡ありそうだしな
野生の勘、と言うのだろうか?昨日寝る前に09:00に目覚ましをセットしていたのだ。大抵その時刻にセットした目覚ましで目を覚ますと携帯が鳴っていたりする。
今回は目覚ましでセットした時刻より早く携帯の着信音で目が覚めたのだが。
いっそのこと可愛い女の子がモーニングコールしてくれているとムリヤリ思い込んだ方がいいのかも?と、よく判らないことを考えつつ、手に持った携帯を放り出す。
朝飯を食べようと思ったことを思い出して僕は立ち上がり、居間へ向かった。
作品名:夏の朝 作家名:tesla_quet