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ココロを持った人形

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「ただいま」

 玄関のドアを開けると、いつものように小さい声で挨拶をする。
 真っ暗な家の中に誰もいないことは知っているけど。
 
 学校の帰りに買ってきたものがお母さんの書いたメモ通りかどうか確かめた後、冷蔵庫とかに入れていく。
 部屋の掃除と洗濯をして、宿題が終わったら、お夕飯の時間になっていた。朝にお母さんが作ってくれていたごはんを温めて食べる。
 食べ終わったら食器を洗って台所も綺麗にしておくんだ。疲れて帰ってきたお母さんが家で少しでもゆっくりできるように。


 家の中で響いている時計の音がお母さんの足音みたいに聞こえる。
 でも、まだ電車に乗っているんじゃないかな? 電車は満員なのかな? お母さんが座れているといいけど、たぶん席が空いていても他の人に譲っちゃうんだろうな。
 わたしはソファから立ち上がってシンとした家の中をグルグルと歩く。でも、やることが見つからなかったから、また座って新しい人形の型紙作りを始めた。


「ただいまぁ」

 玄関の方からお母さんの声が聞こえてきたのは、ちょっと眠くなってきた頃。

「おかえりなさいッ」
「ゴメンね、遅くなっちゃったね」
「ううん、大丈夫だよ。お母さんのごはん温めるね」
「ありがとう、優香」

 お母さんが頭を撫でてくれると本当に幸せな気持ちになる。
 だから、家のお仕事だって全然嫌じゃない。お母さんが喜ぶことなら何だってやるんだ。
 わたしはお母さんが着替えをしている間にお夕飯の準備をして、お食事をしているお母さんに今日の学校での話とかをした。

「今日ね、智美ちゃんにお人形をあげたんだよ」
「そっかあ、智美ちゃん喜んでたでしょ?」
「うん、お店で売ってるものみたいだって」
「優香はお人形を作るの上手だもんね」

 いつもお母さんはニコニコしながら聞いてくれる。だけど、時々すごく疲れたような顔がチラッと見えることがある。そんな時、わたしは泣きたくなる。
 でも、わたしが悲しい顔をするとお母さんが心配するから我慢してずっと笑っていた。

作品名:ココロを持った人形 作家名:大橋零人