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エイユウの話 ~春~

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『魔女!』
 メーラシエラの広がった美しい尾羽が、今度は翼と共に盾と化して、ラジィを包み込んだ。金属性の彼の羽は、時に盾となるほどに硬く丈夫だ。「投擲具が主なら勝ち目がある」とラジィが踏んだ原因はこれにある。とはいえ頑丈な羽根はとても重く、透き通ったあの美しさはまったくない。つまり、視界が悪いのである。
 すぐに木と鋼のぶつかり合う音は止んだ。ラジィはメーラシエラに礼を告げてから、開放を指示する。音が止んでから嫌に静かなことを、メーラシエラは気にしていた。しかし命令に背くのは、彼の理念に反する。彼はラジィの命令を呑んだ。こうも視界が悪ければ、攻撃を読むことが出来ないという彼女の考えに同意したとも言える。
 と、彼が翼を閉じた瞬間、脇からニールが駆け込んできた。短刀でラジィの制服の袖を切りつけると、彼は身を翻すついでに回し蹴りを決める。短剣は柄と先が木製になっており、メーラシエラの接収の対策も、一瞬でばっちりになっていた。彼は意外と近距離型の戦闘が得意だったようである。
 逆にメーラシエラは近距離型を苦手だった。そのため、近場まで切り込まれると彼は攻撃を封じられる。ましてやここで遠距離攻撃を放っては、主であるラジィまで傷つけてしまいかねない。また防御にしても、ここまで近づかれるとほぼ皆無となってしまう。
 回し蹴りを交差させた腕で防ぐと、メーラシエラを一度戻す。緑の術師は、召喚中に動くことは出来ないのだ。それから怪我をした腕を庇うように後ろに飛び退いた。だが、この動きこそ、ニールが狙っていたものだった。
 ニールは一歩先に下がると同時に足元に土陣を置く。掌に隠し持っていたのだ。
「喚起!」
 ニールの掛け声と共に、彼の手元の土陣から槍が飛び出してきた。もちろんこの対戦の規則に応じて、先を研いだだけの棒切れというのがふさわしいスタイルだ。それをラジィに向けてあまりにも乱暴に投げやった。ラジィは軽々と身を翻してそれをかわす。その瞬間、ニールが笑みを零したのに気が付いた。ラジィの背に、悪寒が走る。
「喚起!」
 ニールの掛け声に合わせて、四方から槍が飛び交った。その槍達がラジィの動きを止める。最初にニールが飛ばした紙飛行機の数枚は、上部の結界に貼り付いていたのである。つまり、そうなるようにもともと土陣の書いてあった紙に細工がしてあったのだ。ちなみに魔法道具への細工は戦いを有利に持っていくためのただの手段であり、そのため違反にはならない決まりになっている。ましてや今回は、地の道具である土陣なのだがら、何に書こうが自由なのだ。
 最高術師の実力なのか、奇跡的にもラジィには一本も刺さったりなどはしていない。ただ、彼女の動きを封じただけだった。だが、所々が切れて出血してしまっているのも事実。痛みと恐怖で彼女は気をぎりぎりのところで保ち続けていた。
作品名:エイユウの話 ~春~ 作家名:神田 諷