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サプライズ

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 私は今、行きつけの喫茶店に向かっています。その喫茶店でサプライズパーティーが行われるからです。本日サプライズを受けるのは笹田さんという男性の方で私が所属する美術サークルの先輩にあたる方です。
 事の発端は一週間前のサークル活動のことでした。その日は自分の好きなように絵を書いていいとのことで、友人との談笑もそこそこに、楽しく活動できたのを覚えています。そして活動が終盤に差し掛かったとき部長が立ち上がり、一週間後、行きつけの喫茶店で笹田さんにサプライズの誕生パーティをしようと提案をしました。部員のみんなはその提案を快く承諾しました。うちのサークルは少人数なので、一人休むだけで活気が下がってしまうのが寂しいところではありますが、こういうときは非常に都合が良いものです。
 それし今日がその一週間後となるわけです。笹田さんは果たして驚いてくれるでしょうか、そして喜んでくれるでしょうか。このような人を喜ばせるイベントが好きな私は、心が高揚し、自然と早足になってしまいます。このペースだと、喫茶店に着く時間が予定より早くなってしまうでしょうが、早いに越したことはありません。先に来ている方と話しをして時間をつぶすことにしましょう。
 喫茶店への目印を見つけた私は大通りをはずれ、小さな路地に入りました。周りが建物に囲まれているせいで、昼間であるにもかかわらず薄暗いこの路地を不気味だという人もいますが、私はこの路地を通るたびに、まるで誰も知らない秘密基地に向かっている子供のような気持ちになります。事実、その喫茶店はあまり誰にも知られていないのでピッタリなのかもしれません。そんなことを思っていると、喫茶店が目と鼻の先に見えていました。
 私が喫茶店に入ると同時にドアーベルが鳴り、その音に気づいた方たちがこちらを向きました。やはりすでに来ている方がいるようです。
「生純ちゃん」
 私の名前を呼ぶ声が聞こえました。そちらを向いてみると、同期の女性部員が手招きをしていたので、彼女のもとにいってみます。
「ここに座りなよ」
 そういって彼女は自分の隣の席を軽く叩きます。
「はい」
 私は彼女の隣に座りました。
 カウンターを見ると、喫茶店の店長さんがちょうど厨房から出てくるところでした。店長さんは私を見つけると
「いらっしゃい」
 そう言ってにこやかに微笑んでくれました。私もお辞儀をして返します。
 店長さんは眼鏡を掛けた優しい印象のある男の方です。店長さんは大学を卒業してすぐにこの喫茶店をオープンしたらしく、それは私がちょうど大学に入学した年のことです。たまたまこの路地を歩いていたときこの喫茶店を見つけて、以来ここの珈琲の虜となってしまいました。また、珈琲を飲みに来るだけでなく、悩みがあるときには店長さんに相談をするためにここを訪れることもあります。すると決まってあの微笑とともに私を後押ししてくれます。そして今回、このようなイベントを行うと話したところ、喫茶店を数時間だけ貸切にしてくれるとのことでした。私はその厚意に甘え、部長にその旨を伝えたのです。

 時間がたつにつれ、徐々に部員が集まってきました。もうすぐサプライズパーティー、もとい誕生会が始まります。
 本日の主役である笹田さんの方には、話し合いをするので所定の喫茶店に来て欲しいと部長の方から伝えてあり、他の部員にはそれよりも早く来るようにと指示を出していました。そんな中、隣に座っている部員が私に話を掛けてきました。
「笹田さん、喜んでくれるといいね」
「大丈夫です。きっと喜んでくれますよ」
 そうです、きっと大丈夫です。今朝のテレビでやっていた星座占いで、いて座である私は「物事がうまくいく」と。そして、乙女座である笹田さんは「幸福がおとずれるでしょう」といっていましたから。全てが良い方向に向かっていることに間違いはありません。
 しばらくして笹田さん以外の部員が揃いました。笹田さんが到着したら席についてもらい、その後店長さんがケーキを持ってくるという手筈になっています。それをみんなで再度確認し、彼の到着を待ち続けて十数分後がたった頃、ドアーベルの音とともに笹田さんが喫茶店に入ってきました。
「みんなもう来てたんだ。待たせてごめん」
 笹田さんはそういって空いている席に、私の前に座りました。瞬間、店内が薄暗くなりました。いよいよサプライズの始まりです。
 カウンターから出てきた店長さんが蝋燭の刺さったケーキをテーブルに運んできてくれました。飾れているマジパンには「おめでとう ささだ」と書いてあります。それをみた笹田さんは「おおっ」と短く感嘆の声を上げました。
 続いてプレゼントを渡します。部長さんは絵をたくさん描いて練習して欲しいということでスケッチブックをプレゼントしていました。それに続き皆さんも渡します。プレゼントにはいろんなものがあり、マッサージ道具やタオルなどの実用的なものがあるかと思えば、男性同士でこそこそすることもあり、中には果物を持ってきた方もいて、もはや何でもありといった状況でした。それで私はというと、こういうときに何を渡せばいいのかが思いつかなかったので店長さんに相談したところ、「手作りのお菓子なんかどうだろう」という助言を受けました。それを聞いて「それで大丈夫でしょうか」と店長さんに聞き返したところ「手作りのものって案外効くものだよ」といっていました。店長さんがそう言うなら間違いないと思い、そうして今回持ってきたのがこの手作りクッキーです。果たして笹田さんは喜んでくれるのでしょうか。
 そうこうしているうちに順番が回ってきました。私は少々恥ずかしがりながらも、手作りのクッキーを渡しました。
「うわ、これって手作り?」
「そうですよ」
「ほんとに!?今食べてみてもいいかな」
「ええ、どうぞ食べてください」
 私がそういうと笹田さんは包みを開けクッキーをひと摘みすると、口に頬張りました。
「これおいしいよ。ありがとう、生純さん」
 どうやら笹田さんは喜んでくれてたようです。その周りでは男性陣が「俺にも食わせろ」と言っていますが、笹田さんはその言葉に一切耳を貸さず、「残りは家に帰ってから食べるよ」といってクッキーを鞄の中に仕舞いました。
 その後はケーキを食べたり、少しですがお酒を飲んだりもしました。といっても私はお酒に弱い体質なので、今回飲むことはありませんでした。以前の私はまったくお酒を飲めない下戸でしたが、やっとのことで少しだけ飲めるようになったところです。私が始めてサークルの飲み会に参加したときは、酔っ払った先輩に無理やり飲まされようとしたことがありましたが、そのとき笹田さんが酔っ払った先輩を止めてくれたおかげで助かりました。私はそれを思い出し、笹田さんはやはり頼りになる方だと感じ、その笹田さんに今回喜んでもらえてほんとに嬉しく思いました。
 
作品名:サプライズ 作家名:A.S