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かいかた・まさし
かいかた・まさし
novelistID. 37654
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レッツ褌

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「着られているパンツのせいですよ、パンツを腰から落とさないようにするためのゴムバンドが原因ですね。湿気の強い日本の夏のせいで、いつも以上に汗が出たのでゴム物質が、汗によって溶け出し、体に染みこんだせいでしょう。それでアレルギー反応が出たのです。ゴムパンツをはいている限り、この症状はよくなりません」
「そんな、パンツを履くなってこと? Oh, no!」とジャックは驚いた。ノーパンで過ごせというのか。しかし、これは男としては心地のいいものではない。股の間にぶら下がったものを常にぶらぶらとさせた状態にする感覚は、身がしまらない。また、勃起した時にズボンから突き出た状態にならないための抑えが必要で、そのためにもパンツは普段は身につけてないと心地悪いのだ。

「パンツが駄目なら、これを履いてみてはいかがですか、同じ症状の患者さんに必ず薦めているものがあります」
と医師が白い布きれを取りだし見せた。
「THIS IS FUNDOSHI!」と医師はジャックに言った。

身につけ方は実に簡単であった。白くて長い布きれを垂らすように紐が上両端に通っている。紐をへその下で結び、尻から垂れた布をまくり上げ、結んだところまで引き寄せ、紐の下をくぐらせ、それを、また紐の上に垂らした状態にする。だらりと長い布が股間の間に垂れた状態になる。

なんでも、日本では、医療用に入院患者が長時間ベッドで寝そべる時、快適になるように身につけさせているという。だが、ガイジンのジャックにとっては、全くの未知の体験だ。

試しにつけてみたものの、なんとも不思議な下着だ。ゴムではなく、紐で腰を締め付けられる感覚。それは、ブリーフでもトランクスでも味わえない感覚だ。鏡で自分が褌を身につけた姿を見ると、びっくりであった。これは、カナダでは先住民が身につけているものに似ている。

ブリーフのようで、トランクスでもあり、どちらでもない機能がある。つまり、ブリーフのように大事なものを包み込むが、同時にトランクスのように隙間があるので、通気性がいい。高温多湿な日本ならではの下着なのだと思った。

百合子は、ジャックの褌姿をみて、大いに喜んだ。「とってもセクシーよ」と。泰蔵も、「おう、褌かい、にあっちょるぞ」と言ってくれた。だが、泰蔵は、こんな褌は着たことがないという。ジャックは、それを知って驚いた。なんでも、泰蔵の父親、百合子の祖父の世代以前なら普通に着ていたが、泰蔵の子供の頃から日本の下着の主流は、ブリーフかトランクスになっているという。つまりは、日本人が着物を着なくなったのと同様に、下着も洋服に合わせて変わったということだ。確かにそうだ。ズボンを上から履くと、褌には困ったことがある。それは、小便をするためチャックを開けて、一物を取り出そうとする時、布が邪魔してやりにくいのだ。長い布が、チャックの前でくるまってしまう。

「ねえ、だったら浴衣を着ない?」と百合子が薦めた。

夏用の日本の着物だ。これは面白い、せっかく日本に着たのだから、是非とも着物を試してみたいと思った。

百合子は、商店街に出かけて、ジャックにあいそうな浴衣を見つけ身につけさせた。浴衣はたった一枚の布をマントのように羽織りそれを前で重ね合わせ、そして、帯で締める。何度も日本文化を紹介する本などで写真を見たので、どんなものかは知っていたが、いざ身につけると、気分が一気に変わる。まず、ズボンと違い、当然のことながら動きにくい。なんだか、スカートを履いているようだ。だが、洋服と違い、褌と同様に風通しがいいのだ。なるほど、高温多湿のこの国ならではの機能性を考えたものだということか。もちろんのこと、褌が下着としては最適だ。それは、浴衣の下はがらんどうだ。垂れた布は、そのまま垂らされる。小便もズボンと時と違い、問題ない。褌は着物のためにあった下着だったということか。


また、意外なことも発見した。褌はブリーフやトランクスに比べ、選択した後、長い布が一枚なので、干すとすぐに乾くのだ。洗濯に便利ということか。


百合子も浴衣を買った。女性の浴衣は帯の形が大きい。百合子のは黒くて花柄。ジャックは青い縞模様の柄。なんでも日本では、こんな浴衣は祭りの時でもないか限り、着ることはそんなにないという。確かにそうだ。日本に着て、着物姿の日本人を見ることが滅多にない。

祭りではないが、せっかく新調したのだ。百合子と一緒に浴衣を着て町を歩いてみることにした。ガイジンとその日本人妻の浴衣姿。通りがかりの人達は好奇の目で見る。まあ、予想したことだが。二人は海岸沿いを歩きながら、日本海を眺めた。潮風と潮の匂い、海のないモントリオールやトロントに住んでいたジャックにとっては、嬉しい風景でもあった。
来てよかった。何とか、泰蔵にも元気になって貰いたいと願った。もっとも、この町の人達には歓迎されてないようだから、泰蔵が元気になった時は、モントリオールに戻るしかないか。

二人きりで、海岸を歩いてのんびりとしていると、いつのまにか時間が過ぎてしまった。そろそろ夕暮れ時だ。かなり歩いた感じがする。戻って夕食を作って食べるより、どこかで食事をしようかと考えた。泰蔵は、宅配の夕食を食べるので問題ない。携帯で電話して、二人で外で食事をしてから戻ることを伝えた。

ジャックは、ある看板を見つけた。どうやら食事ができる店のようだ。看板には「食堂・居酒屋 日本男児」とあり、屋根瓦の純日本風の建物があった。
「ここで食事をしよう」とジャックが百合子に言う。すると、百合子が「ここで」とやや怪訝な顔をする。
「僕は腹がぺこぺこだよ」とジャック。百合子は、なぜか気乗りしない表情をしながら、「OK」と応えた。一体どういうことなのだろうか、と思いながら、ジャックは百合子と一緒に「日本男児」という店に入った。

「いらっしゃい」という威勢のいい中年親父の声が発せられた。
中は、テーブルが3台ほどとカウンターのある狭いひなびた食堂だ。カウンター越しに、店主らしい中年親父が立っていた。
「お久しぶり、源さん」と百合子が声をかける。どうやら知り合いのようだ。
「おお、百合ちゃん、本当に久しぶりだ。何年ぶりだろうね、で、その人が、噂で聞いていたカナダ人の旦那さんかい」
「ええ、ジャックっていうの」
ジャックは、その源さんという人に、にっこりと微笑み「はじめまして、ジャックです」と挨拶した。
「ほう、さすが、百合ちゃんが選ぶだけあって、いい男だね」
百合子は、少し照れた顔をする。
「さあ、座って、百合ちゃんの旦那さん、ジャックさんも。今晩は、俺がおごるよ。丁度、いい魚が手に入ったんだ。百合ちゃんとの再会とジャックさんといういい旦那さんのお披露目を記念してご馳走してやるよ」
なーんだ、町の人はいい人じゃないか、とジャックは思った。百合子が言っていたほど、よそ者を嫌うというタイプではなさそうだ。ちゃんと接してみれば、打ち解けて貰えそうだ。
ジャックと百合子が席に座ると、源は酒の瓶とグラスのコップをテーブルに持っていき、酒をついでくれた。
「ねえ、太郎君はどうしてるの? 聞いたところによると、彼はイギリスに行ったとか」
作品名:レッツ褌 作家名:かいかた・まさし