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雷雨

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授業が終わった。教室は気怠さと騒がしさに二分されている。夕方のいつもの光景だ。僕はそんな雰囲気を背に、一人で教室を出る。階段を下りて、玄関へ向かう。
 靴を履いていると、空が光る。そのすぐ後に、雷が鳴った。どうやら近くに落ちたらしい。昔は、雷が光ってから音が鳴るまでの時間の差が不思議だなと思っていたけど、今はもう理屈もわかっているし、不思議には思わない。ただ、もしも自分に雷が落ちたら怖いなと思うぐらいだ。
 一雨来そうなので、傘を忘れずに持って、校舎から出る。まだ降ってはいないが、雨の気配がした。
 雨は嫌いじゃない。雨音が他の音を掻き消して、全部同じ音になる。それに、傘で目を隠すことができる。余計な人と目を合わせなくて済む。ただ、濡れるのはあまり好きじゃない。好きな人のほうが少ないだろうけど。

 学校から駅まで二十分ほど歩かないといけない。これは微妙な距離だ。近くて遠い。自転車を使いたくなる。だけど、駅に自転車を置いておくわけにはいかない。駅から電車に乗って、最寄りの駅に降り立ってからも遠いからだ。そこに僕の自転車は置いてある。流石に駅から学校まで区間専用の自転車を買うというのは気が引ける。そういう訳で、いつも歩いている。
 歩くのは好きだ。その間、色々と考えることができる。それが楽しい。朝は、ちょっと急ぎ足でいかないと遅刻してしまうから、歩くことに集中して、考えることがあまりできないけど、帰りは違う。いくらでもゆっくりと行けばいい。電車を乗り過ごしても、次の電車を待てばいいだけの話。暇つぶしはいくらでもある。宿題をするのもいいし、本を読むのもいい。音楽を聴いていてもいいし、ただただ考えていてもいい。

 そんなことを考えている内に、ポツリ、ポツリとそれは来た。
 何年も使っている深緑色のオンボロ傘をゆっくりと差す。そんなに安い傘ではないのだけど、何しろオンボロだからぜんぜん雨を弾かない。雨は重力に従って流れ落ちていく。最初の数滴が作った道に沿ってたくさんの雨が流れていく。たまに布の部分に染み込んだりして、それが骨の部分を伝って僕の肩に当たる。もうそんなのには慣れっこだ。それでも傘を差さないよりはずっと濡れる量は少なく済むのでこれを使っている。
 雨脚はどんどん強くなる。風も吹いてくる。傘が上半身を守ってくれるが、下半身は容赦なく雨に曝される。ズボンはすぐにぐちゃぐちゃになった。靴にも水が入ってくる。靴下と足が水でくっついて、何とも気持ちの悪い感じがする。
 駅までは残り少しだ。走ろうかとも思った。でも、それは面倒臭い。何しろ疲れる。それならばもう少しぐらい濡れたってかまわないと思った。どうせもうぐちゃぐちゃに濡れてしまっているのだし、ここから走ってもそれほど変わらない。

 なんとなく、空を見上げてみた。真っ黒な雲が空を覆っている。雨は数メートル先も見えなくするほどに降り注いでいる。雨音だけが響き渡る。世界の全てが雨に包まれているみたいで、何故だかとても面白いと思った。
 降り続く雨を見ていると、急に何かを叫びたい気分になった。だけど、流石にそれは恥ずかしいのでやめた。羞恥心というのはなかなか強い。僕の場合、役に立つときよりも過剰すぎて逆に損をすることのほうが多いと思う。こんなものなかったらいいのに、と思うときもあるけれど、なんだかんだでないと困るものだろうな、とも思う。
 もしかしたら、こんな自分を変えるより、こんな自分でも生きていけるやり方を探していったほうがいいのかもしれない。そっちのほうが気楽かもしれないな、なんてことをふと思った。
 ぼうっとしていると、こんな風に色々なことが浮かぶ。それから連想していくと、気付いたら最初がどこだったか分からなくなるぐらい遠くに来ている。遡ろうと思っても、それも難しい。話がどんどん飛躍していくからだ。それがとても面白い。だから考えることは飽きない。今の所は、だけど。

 雨はまだ降り続く。僕はそれを駅のホームから眺める。
 しばらく雨は続くだろう。
 でも、いつかは晴れるのだ。
作品名:雷雨 作家名:うろ