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ナガイアツコ
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novelistID. 38691
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二息で駆け抜ける、有栖川宮記念公園

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働き者の私は(誰も言ってくれないので自分で言う)、
仕事関係の調べもののため、
二週続けて、土曜日の午前中に、
広尾にある都立図書館へと出かけてきたのだけれども、
先々週の土曜日は、天気予報で
傘マークが出ているのを確認したにもかかわらず、
出がけに傘を持つのを忘れ、
でもまあ大丈夫だろうと高をくくってそのまま電車へ乗り込み、
広尾で降りて、外国人家族が遊ぶ有栖川宮記念公園を通り抜けて、
閑静な都立中央図書館に辿り着き、二時間ほど調べ物をしてから、
5階にある食堂で暖かいカフェオレを飲みながら、
どんよりどよどよした暗澹たる雨雲を恨めしそうに眺め、
絶対濡れてなるものかと、調べ物の残りをさくさく終わらせ、
さて、図書館の出口を出てみると、
どしゃ降りの雨が容赦なく地面を叩き付けていたので、
私も負けず嫌いなものだから、
コートのチャックを一番上まできゅっと上げ、フードを深く被り、
足早に公園の丘を下り、途中、公園の横にある
かの紀伊国屋よりもインターナショナルな
その名もアザブスーパーに立ち寄るも、
日本の土着スーパーみたいに安い雨傘が売っているわけもなく、
当たり前のようにアルファベット表記な値札たちを横目に、
なんだか敗北感みたいなものを感じながら、
駅までうなだれながら歩いていき、
まるで濡れ鼠のように惨めな出立ちで、
空いてる電車で座ることもできず、
震えながら学芸大まで戻ってきて、
駅の売店でようやくビニル傘を手に入れ、
もう今更傘をさしても、大して変わらないんじゃないだろうかと、
半ばやけっぱちな気持ちで、
冷えきったアパートへと帰ったのでした。


その次の土曜日は、朝起きると窓の外に雪景色が広がっていて、
雪もまだまだ降り続いていて、天気予報を見ると、
お昼ぐらいが雪のピークと言っているし、
こんな日に外にでるのはどうかとも思ったのだけれど、
交通情報では電車が止ったというニュースは流れていなかったし、
働き者の私は(何度でも言う)どうしても調べておきたいことがあったし、ツタヤのビデオも返却しなきゃならないし、
なにより、雪の日に外に出るのは雨の日に出かけるのと違って
心の底から浮き浮きしてくるので、私は厚めの服を着込んで、
颯爽とアパートの外へ飛び出し、まだ誰も踏んでいない
ふんわりとした雪の上を、サクッサクッと音を立てて駅まで歩き、前の週と同じように電車に揺られて、広尾で降り、
有栖川宮記念公園内へ入ると、
そこは目を見張るほどの真っ白な雪の世界で、
木々の間からふわふわ舞い降りて来る雪を眺めていたら、
いつも生きてる世界とはなんとなくスピード感が違っていて、
目で追っていると、次第にくらくら目眩がしてきたので、
いかんいかんと、首を振って目線を前へ戻すやいなや、
公園の池で鴨とアヒルたちが、
いつもと変わらない様子でスイスイ泳いでいる光景が目に入り、
さすが野生は違うなと、しきりに感心しながら丘を登りきり、
空き地で雪合戦して遊んでいる外国人家族が
マミーとかハニーとか呼び合っている美しい光景を横目に、
今日も閑静なたたずまいの図書館へ向かい、
入館手続きを慣れた手順で済ませ、さくさくと調べ物を終わらせ、
さくさくとコピーをとって、メモをとって、
雪のピークの正午に図書館を後にし、
寒いけれど、幸せな気持ちでもって、
雪の積もった、暖かな我が家へと帰ったのでした。