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黒猫ぺろり
黒猫ぺろり
novelistID. 38665
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不条理劇場 第二部 昼休みの風景

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とある会社の昼休みの風景、男は新聞を読んでいた。
新聞には戦後始まって以来の引きこもりによる初の逮捕者として
不条の事が大々的に取り上げられていた。男は言った
「おい、加藤、知ってるか、不条の奴が逮捕されたってさ」
「知ってますよ、テレビでもやってましたからねぇ」

その時、若い男が言った
「浅間山荘事件並みのショッキングな事件ですな、まぁ、例えて言うなれば、
ニュートンが万有引力を発見したみたいな感じですか」
「なぁ、志村よぉ、お前の例えは良く分からないし、
規模がでかいんだよ。今の例えに値段を付けるとしたら10円位かなぁ」

「田代さん、何にでも値段付けたがりますよね」
「いいか、加藤。プライスレスなんて俺には無いんだよ。俺は、
なんでも鑑定団だぜ」「だからと言って、僕の彼女にまで
値段付けなくてもいいでしょ。この前、ばったり会った時、
1980円位かなって、それは無いでしょ、田代さん」

「…そうそう、不条の事なんだけどさぁ」
「加藤君、見事にスルーされたね、例えて言うなら、
マックでスマイルくださいって言ったのに、ご注文はお決まりですかって、
何事も無かったように言われたみたいな」
「おっ、志村。今のは良かったよ、値段で言うと1万円位だなぁ」

志村は深々とお辞儀をしながら言った「ありがとうございます」
「で、不条さんがどうしたんです」
田代は志村の見事なお辞儀に見とれていたが、
加藤の言葉で思い出したかのように言った
「あぁ、そうそう、あいつ、良い奴だったよなぁ
何で、引きこもりで逮捕されちゃうかなぁ」

「でも、よぉく考えたら変ですよね、
何で引きこもりで逮捕されちゃうんですかねぇ、
というか、不条さんは引きこもりじゃないでしょ」
「うむ、正に不条理という奴ですな」「あぁ、腑に落ちないよなぁ、
無罪であって欲しいよ」「でも現行犯逮捕でしょ、有罪じゃないですか」

「じゃぁ、せめて死刑だけは勘弁してあげてほしいなぁ」
「引きこもりで死刑は無いでしょう、
というよりも引きこもりって犯罪なんですか」
「あぁ、犯罪なんじゃないの。だって立てこもりの兄弟でしょ、
だったら、犯罪かもね」「そうすか、田代さんが言うなら間違いないですね」

「そういえば、加藤君」「何だよ、志村」
「閉所恐怖症は直ったのかなって思ってさぁ」
「あぁ、加藤、閉所恐怖症だったんだよな」
「そうですよ、250万円の価値がある閉所恐怖症ですよ」
「そうそう、かなりひどいから、俺が250万円って言ったんだよなぁ。
思い出したよぉ」

「田代さん、加藤君が閉所恐怖症になった原因の話って知ってますか」
「いや、知らねぇ」「あれは加藤君が、小学生の頃でした。
加藤君は学校で有名なかくれんぼマスターでした。
もともと存在感が薄いというのもありますが、一度隠れたら、
誰も見つける事はできなかったんです」

「ほう、凄いな」「しかし、見つからないのは当たり前です。
加藤君は家に隠れていたのですから」「あぁ、かくれんぼの最中に
家に帰ってたのか」「そうです、しかし、この事に気づき、
不正を暴露した正義の少年がいました」
「志村、それはお前だ、俺はお前のせいでこうなった」

「へぇ~っ、志村と加藤は小学生からの仲だったのか」
「そう、正義の少年は私です」「俺は志村にはめられたんです」
「私は加藤君に言いました。この事は口外しない、その代わり、
僕の考えた計画を実行して欲しいと」
「あぁ、なんか面白くなってきたな」
「その計画とは・・・」

志村は目を閉じた。しばしの沈黙、そして目を開き言った
「三億円事件です・・・」「あぁぁ、嘘だろ」「はい、嘘です」
「もう、いいよ志村。この続きは俺が話すから、お前は何も言うな」
「加藤君、そうしてくれないか、僕にはこれ以上は無理だ」
「たいした話じゃないんですよ」

加藤は志村を見ながら言った
「こいつが、俺にかくれんぼのギネス記録に挑戦して欲しいって
言ったんですよ。それで、近所の空き地に業務用の冷蔵庫が捨ててあって、
その中に入れば絶対に誰にも見つからないから、
そこに入ってくれと言われたんですよ」
「入ったのか」「そうです」

今度は志村を睨みながら言った
「かくれんぼが始まって俺は、すぐに空地の業務用の冷蔵庫に入りました。
ご丁寧に水とカンパンが用意してありました」
「私が用意しました」
「それで、記録が達成できたら志村が呼びに来るという手筈だったんですが、
なかなか呼びに来ないんです」

「加藤君、その続きはやっぱり、僕に話させてくれ」「分かった」
「私はかくれんぼのギネス記録がどれくらいか知らなかったんです。
それで、知らないままでやっても意味が無いなと思って、
夜中に抜け出して空地へ行ったんです。
すると、ある筈の冷蔵庫が無くなっていたんです」

「そこからは俺が話すよ、その冷蔵庫は誰かが、
ゴミ廃棄場に運んだんです、それでドア側の方が下に置かれた状態で
開かなくなってしまって、僕は完全に閉じ込められてしまったんです。
全力で叫び続けたおかげで廃棄場の人に助けられました。
でも、それが原因じゃないんですよ」

加藤は田代の方に向き言った
「さっき、志村が不正を暴露したって、言ってましたよね」
「そういえば、言ってたなぁ。でも口外はしないとも言ってたけど」
「いえ、俺が冷蔵庫から生還した後のある日の帰りの会で
暴露しやがったんです」
「不正は正さねばならない、それが正義だ」

「うるさい、黙れ志村。お前のせいなんだぞ。その後の掃除時間に俺は、
掃除用具入れに閉じ込められました。
暗くて狭い掃除用具入れの中で外から聞こえる罵声に耐えていました。
その経験が原因で狭いところいると、
その時のことを思い出してしまって、苦しくなるんです・・・」

その時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「おい、加藤、そんな事はもう忘れろ」「はい、頑張ります」
「あ、田代さん、一ついいですか」「ん?どうした志村」
「不条さん取調べで泣いたりしてませんかね」
「心配するな、あいつの忍耐力は国家予算並だぜ、大丈夫だろ」