小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ロッキーとエイドリアン

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

寝る前早速1錠飲み、床に付いた。その夜俺は、妙な夢をみた。何処までも果て
しなく続く坂道を、ロッキーのテーマ曲に乗せながら必死に自転車をこいでいる
のだ。朝、目が覚めると、体は汗でぐっしょり、全身が熱く火照っていた。なる
ほど、これが代謝向上の証ってやつだな。どれどれ、体重は如何に?

体重計に乗って、昨日の寝る前に測った体重と比べてみると、確かにきっかり10
kgの体重が減っている。凄いじゃないか、1日で確実に10kg減量できるな
んて奇跡に近い。でも待てよ、次の日リバウンドなんて事は無いだろうな、落ち
着け、落ち着いてもう少し様子を見よう。

会社い行くと、「あれ、先輩、しょっと小さくなったんじゃないですか?」なん
ていきなり聞いてくる奴がいる。1日で10kgも落ちればそりゃ違い分かるよ
な。そういやスーツのベルトの穴も1つ縮まったし。

明日からゴールデンウィークで5連休。この間に残り4錠を飲んで、50kgの
減量に成功だ。体重が100キロある俺は、連休明けには体重50kgのスレン
ダーなイケメンに大変身だ。きっとギネス級の記録になるだろう。テレビの取材
がきて有名人になったりして、ヒヒヒ。

次の日も次の日も俺は欠かさず毎日1錠のカプセルを飲み込んだ。今日は連休の
最終日。相変わらず、万年床で食っちゃ寝食っちゃ寝の5日間を過ごしたが、体
重は確実に1日10kgずつ減って行った。ついにトータル50kgの減量に成
功したのだ。

ワイシャツに袖を通してみると、さすがにダボダボで、着れたものではない、ズ
ボンに足を通してみる。ベルトの穴がもう無いところまで縮んでしまった。俺は
大満足で満面の笑みを浮かべた。ズボンのウエストを押さえて立ち上がると、何
か分からないが違和感を覚えた。

ズボンの裾が20cm程、余って足が出てこないのだ。そういえばダボダボなワイ
シャツの袖からも手が出ない。まるで赤ん坊が大人の服を着ているようになって
いるではないか。俺はあわてて、全身が見える鏡の前に立った。

(ぎゃー!)

体型は妊婦のままで、ただ全体的に小さくなっただけではないか。まさか、体型
は変わらず体重だけが落ちるなんて想定の範囲外だ。身長もかなり小さくなって
いる。小学生並みだ。

やぺぇ、欠陥品だ。俺は急いで注意書きに書いてあった、相談窓口の電話番号に
電話を掛けた。

「はい、○○製薬、お客様相談窓口です。」
「先日、新薬の臨床を頼まれて飲んだ者だが、体が小さくなってしまったぞ!
 どうしてくれるんだ!」
「お客様、ご使用になられた新薬名はロッキーでしょうか?」

(ん? ロッキー?)

俺は薬の入っていた箱を見た。そこには確かに「ロッキー」と書いてある。なる
ほどそれで毎晩、ロッキーのテーマ曲に乗せて自転車を漕ぐ夢を見るのか。と感
心している場合ではない。

「たしかに、そのロッキーだ。こんな欠陥品を寄こすとは何事だ!」
「お客様、体重は減りましたか?」
「ああ、体重は注意書きに書いてあった通り、1日10kgずつ減ったよ。」
「それでは、何の問題もございません。それがロッキーの効能なのですから。」
「でも、身長が縮んだし、体つきもそのままじゃないか!」
「お客様、ロッキーは体重を減らすお薬です。お客様の体型まではその範疇に
 ありません。」

あっ!してやられた!
デブは体重さえ落ちればイケメンになると誰もが思っている。その盲点を完全に
突かれた。

「と、とにかくこの体を元に戻したい。どうすればいいんだ?」
「お客様、ご安心ください、当社には1日1錠で体重が10kg増えるエイドリ
 アンというお薬がございます。」
「エイドリアン?」
「はい、当社がロッキーに先駆けて開発したお薬ですが、この製品は有償になり
 ます。」
「いいから、すぐに送ってくれ!」

その日、5錠の青いカプセル、「エイドリアン」と供に、500万円の請求書が
届いた。

「エイドリアーーーーーーーーーーン!」

俺は立ち上がり、両手を上に上げて雄たけびを揚げた。
声帯も縮んでしまったので、ヘリウムガスを吸い込んだ後の声の様に情けない俺
の雄たけびが6畳1間のアパートに虚しくこだました。

(了)

作品名:ロッキーとエイドリアン 作家名:ohmysky