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古びた手袋を身に付けて

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 今朝、戦闘に向う先輩達から、試験休みの俺に温かい声をかけて頂いた。この試験に受ければ一級戦闘員となれる、リーダーとして皆を引っ張る事も出来る。そう思いながら参考書に目を通していた時だった。
「西野ッ、追加召集かかった。怪人オレンジ・ザ・ミカンさんが押されてるみたいだ」
「なにっ!」
 同僚戦闘員のその声で、俺の毛穴が一斉に開いた。
『まさか、あのオレンジ・ザ・ミカンさんが……』
 そんな心配の中、俺は取るものも取らずに現場へと駆け出して行った。

「これは……」
 現場に到着したが、すでに戦闘は終わっていた。爆発したオレンジ・ザ・ミカンさんの破片が、その戦闘の激しさを物語っていた。
「ちくしょー、なんでオレ達は何も出来ひんかったんや……」
「リーダー、……何があったんですか?」
「……西野か、命拾いしたな。奴らがこんなに強いやなんて……、上からの情報なんかデタラメじゃねぇか」
「ヤツら?」
「ああ、ヤドカリ戦隊だったか。四人だって聞いてたが、他の戦隊の奴らも加勢していて、仕舞いには十二人ぐらいいたぞ」
「ヤドカリ戦隊っ!?」
「やつら、フリーランスに戦隊名を貸して、不特定多数のチームで行動してんだ。最後の十二人目なんて何色か分からんかった、赤いのなんて三人もおったし」
「リーダー、その中にグリーンは……」
「グリーン? そういやおった。一人だけだが弱ったヤツばかり攻撃してたな」
「あの緑めぇーっ」
 俺は一瞬我を忘れていた。ついにヤドカリ戦隊に、あのグリーンにたどり着いた、その事だけで俺の中の何かが外れた気がした。
「待て、西野、深追いするな!」
 リーダーの声を振り払う様に、俺はヤドカリ戦隊の後を追って走り出した。


 夜になって街は活気を帯びてきた。路地裏から漂う焼き鳥の匂いが、走り疲れた俺を誘う。
「ちきしょう、どこ行ったんだ……」
 ふらふらと彷徨う俺は、いつの間にか隣町のアーケードまで来ていた。
 ――ようやく手にしたヤドカリ戦隊の足跡だとというのに……。
 もうたどり着けないのか……、そう思った瞬間、俺の全身に電流が走った。
「見つけた、ヤドカリだっ!!」
 そこには確かに「ご予約、ヤドカリ戦隊コンドミニアム様」と書かれていた。居酒屋の店頭に、のん気にも看板が出ていたのだ。
「どこまで俺達を馬鹿にしているんだ、ヒーローの野郎!!」
 俺は何の迷いも無くその店へと殴りこんだ、狙いはヤドカリ戦隊、いや、グリーンだ。
「見つけたぞ、ヤドカリ戦隊! オレンジ・ザ・ミカンさんの仇、そして親父の仇、カチコミじゃぁーーーーーー!」
 店内はパニックとなる。飛び交う若鶏のからあげ、生ビールでの目潰し、十月のオススメメニュー韓国スンドゥブチゲでのアタック、その戦いは長いブラックモンキー団の歴史の中で「伝説」と呼ばれるほどの激闘となった。
「オレ達が、たった一人の戦闘員に……」
「まだこんなヤツがいたなんて、知ってりゃこの街に帰ってこなかったのに……」
 そんな薄れる声を尻目に、ようやくグリーンを追い詰めた。マスクの上からネクタイで鉢巻をしているグリーンは、ただのおっさんの様に弱々しく、涙目で俺を見ている。
「しかし強くなったな、隆志くんも……」
「……隆志? なんで俺の名を知っている?」
「私だよ、小さい時はよく挨拶してくれたじゃないか」
 グリーンはそう言うとゆっくりとマスクを外した、そこから現れた顔は見覚えのある、加藤さん家のおじさんだった。
「君には悪かったと思っている、もちろんお父さんにもだ。妻から隆志くんが戦闘員になったと聞いた時には、少々青ざめたよ……。仕事とはいえ、こういった天罰が来るんじゃないかって」
「おじさん……」
 グリーン、いや、加藤のおじさんは閉じ行く目を必死に開けながら、優しい目でこちらを見ている。
「その手袋は、お父さんのじゃないかい? そうか、リュウちゃんはやっぱり許して……くれなかったんだなぁ。これで……良かったんだ、辞めずに続けていて……本当によかった」
「おじさーーん!」
 加藤のおじさんの体は崩れ落ち、満足気な表情のままに意識を失った。俺は、同僚達が現場に到着するまで泣き続けた。



「すまないが、一級戦闘員の西野くんに会いたいのだが」
 出撃前の準備をしていると、挙動不審な戦闘員に呼び止められた。新入隊戦闘員なのだろうか? などと考えていると、脳裏で記憶のパズルが組み立てられ始める。
「この声、どこかで聞いたような……。って、思い出した! クリオネさんじゃないっスかぁ!!」
 俺はびっくりして大きな声を出してしまった。それで周りの戦闘員がこちらに気付き始めた。慌ててクリオネさんは俺の口を塞ぎ物陰に連れて行く。
「君が西野くんなのかい? コガネムシさんからの紹介でね、君のトコだと十分に楽しめるだろうって言われたのさ。コレ、偽造だけど「戦闘員一日体験入隊書」と人事部からの推薦状」
「えっ? でもクリオネさんって今は確か……」
 怪人ビッグ・ザ・クリオネさんはスカウトで入団してきた異色の怪人さんだ。俺は何度かクリオネさんの戦闘に参加させてもらったのだが、見ているだけで勉強になるほどの戦いっぷりだった。ラグビーの元日本代表の肩書きと恵まれた体格を引っさげ、今ではブラックモンキー団に欠かせない存在にまで成長している。しかし先月半ばから離婚調停中で戦闘参加を自粛させられているはずなのだが……。
「いやー、仕事ばかりやってたんで、今さら戦うなって言われても「ハイ分かりました〜」って聞けるわけなくてなぁ。コガネムシさんに相談したら戦闘員として潜り込んでこいって話しになってだなぁ……」
 ――コガネムシさんって、意外な面があるんだな。
「おぅーい、西野はどこ行ったぁ?」
 秘密基地兼寮の玄関にてクリオネさんとやり取りが続く中、戦闘員リーダーの上田さんが俺を探している声がした。
「いいですか、あまり目立たないようにお願いしますよ」
 俺はそう言って、その場から離れて行った。

「西野、お前今日リーダーな」 
 一級戦闘員は、怪人さんがいない現場ではリーダーとして戦闘を取りしきる事となる。先週始めに辞令が出され、俺は一級戦闘員となったのだが、マニュアルと定期講習だけで事を進めている俺に、上田さんはよろしく思っていなかったようだ。
 今日は初めてリーダーとしての戦闘となる、嫌がる暇も無く、強制的に。
「何事も経験だよ、西野くん」
 重い足取りで戦闘予定地へ向かっていると、戦闘員に扮したクリオネさんが声をかけてくれた。
「あ、はい、ありがとうございます」
 俺の気持ちは少しは軽くなったようだ。次代のエースと称される怪人ビッグ・ザ・クリオネさんがいてくれている、尊敬する上田リーダーが見守ってくれている。それだけで自信になる。
「ぶらっくもんきーのおにいちゃんたち、がんばってー」
作品名:古びた手袋を身に付けて 作家名:みゅぐ