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Slow Luv Op.4

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 傷心のユアン・グリフィスはさく也の恋が成就したことを知ると、おとなしく身を引いた。以後は友人として、悦嗣とも親しく出来るように努力する。調律の腕は初めから買っていて、日本のみならずアメリカのリサイタルにまで呼びつけるようになった。悦嗣の取り成しでチャリティ形式のみと言う条件つきながら、さく也とのデュオも実現する。やがてさく也の弟(二卵性の双子)に一目惚れし、またも追いまわすことになるのだが、それはまた別の話。

『とっとと位置につきやがれ』

 あのアンサンブル・コンサートから七年後の十月、加納家の末っ子・夏季が結婚した。
 秋晴れの空に向かって花嫁が投げるブーケは、差し出される女友達の手を通り越す。ゆるやかな弧を描いて落ちた先は、悦嗣と英介の間に立つさく也の腕の中。周りが沸いて、英介が笑う。さく也が自分の手元の場違いなブーケを不思議そうに見つめ、その様子を見て悦嗣もまた笑った。
 花嫁が両手をブンブン振って、
「ごめーん、投げてー」
と能天気に叫ぶので、さく也は華やかな一群に渡るように投げ返した。受け取るに相応しい人間の手に、今度こそブーケは落ち着いて、人々の関心もそちらに移って行った。
「もらっておけば良かったのに」
 英介が冗談めかして言うと、さく也は「いらない」と簡潔に答えた。
「情緒の無いヤツだな」
 彼らしい物言いに、悦嗣が苦笑した。
 厳かな儀式から解放された新郎新婦を人々が囲んでいる。それを見ていたさく也は、悦嗣の言葉に振り返った。
 それから、
「もう神様に誓った人がいるから」
と、ふんわり微笑んだ。


作品名:Slow Luv Op.4 作家名:紙森けい