小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

リリーブライド

INDEX|1ページ/1ページ|

 
私ね、結婚するの

私の大好きな女の子はそう言った。
あの子は看護婦の仕事をしていて、私は学生。
小さい頃からいつも一緒にいた私達だから、お互いの間には壁など何もないのだと
私は子供のようにそう妄信していた。

素敵な人なのよ。あなたも、会った事があるでしょう

私の大好きな女の子は、とても幸せそうににこにこ笑って言う。
そこで私は、知った。
この子は社会人で、私は学生で、それよりも何よりも、私達はどちらも女だった。
好きにはなっても、愛してはいけない。
そういう仲だった。

良かったね。あの人、かっこいいもんね

私は笑ってそう言った。
良かった。本当に良かった。大好きな人が大好きな人と一緒になって、幸せになるだなんて
これ以上の幸せ、私には想像がつかない。

祝ってくれてありがとう

女の子はそう言った。
年の割には幼い顔立ちをほころばせて、真っ白な歯を見せて笑った。

幸せになってね、そうならないと許さないわ

それは私の、私の切なるたった一つの願いだった。
どうか幸せでありますように。
私の大好きな女の子は、私のかなわない願望の元で、どうか幸せになりますように。
そう願い、私はピンク色のドレスであの子の結婚式に参加した。
純白に包まれた女の子は、泣きながら笑いながらもう訳のわからない表情で
まるで子供のように年下の私にひたすらありがとうありがとうと繰り返すから
私は笑ってあの子を抱きしめた。

それからしばらく時間が過ぎて。
私は別の男の人と結婚した。
三年目の春、私はその男の人によく似た女の子を産んだ。
初めての娘には、私の初恋の女の子の名前をつけた。

女の子は育って、女の人になった。
セーラー服を脱いで、ぴっちりしたスーツを着るようになった。
その頃になると私はもうぽつぽつと白い髪が生えていて、眼鏡無しでは細かい文字が見えなくなっていた。

なかなか結婚しない女の人が、家に三人目の恋人を連れてきた頃。
家に一通、葉書が届いた。
その葉書は、ひとりの少女だった女性の死を告げるものだった。
家族に見守られての大往生、だったらしい。

葬儀に参列し、そこで数十年ぶりの同級生にも出会った。
誰かの死は何度体験しても悲しいけれど、寿命をまっとうし
死すべくして死んだ人の葬儀には事故や自殺の葬儀とは違って笑顔があり
悲しくも愛おしかった。

彼女の墓には、百合の花を携えて行った。
墓の周りには誰もおらず、私は幸いゆっくりと自分の考えに没頭する事が出来た。

久しぶりだね、死んだって聞いて、びっくりしたよ。長い事年賀状だけだったから

私はそう言いながら、ひしゃくで墓石に水をかけた。
灰色の石が、冷たい水に濡れてきらきらと輝いた。
何かを言いたいのに、私は、どうしてだか何も言う事が出来なかった。

私、ね

少しずつ、口を開く。

ずっと、秘密にしてた事があるの。旦那にも娘にも、もちろんあなたにも。

生きてるうちに伝えたくて、だけど、伝えればきっと壊れてしまうだろう何かが怖くて言えなかった秘密。
頬を伝う涙を拭う事無く、私は一息に言った。

「あなたを、ずっと愛してたわ。友達なんかじゃなくて、一人の可愛い女の子として」

笑って、言った。

伝えられて良かった、と思った。
あなたに伝わったどうかはわからないけれど、私はずっと私の胸に詰まっていた塊を、今あなたに吐き出した。
白い髪に、くすんだ皮膚に、私はあの頃とずいぶん変わったけれど
この塊は何も変わらず、ずっと想い続けた大事な塊だった。

「ばいばい、牡丹ちゃん」

そう言って私は、彼女の墓に背を向けた。
備えた百合の香りが、つんと鼻を刺していた。



END



09.1/4
作品名:リリーブライド 作家名:藤亜