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悪魔の証明

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「ラグビー部に入りませんか? 体もしっかりしてるしイケると思うよ! 初心者も大歓迎だからさ! よかったら連絡先教えてよ。」
なんでこんなに勧誘しているのだろう。
この人は何がしたいのか。
わざわざ新入生に気を使って、そんなに入ってほしいのか。
俺が入るって言ったら、この人はさらに恭しい態度をとるだろう。
でも、入部しばらくしたら、この人は俺の先輩になる。
そしたら、この手もみしてる中小企業の社長みたいな態度は消えて、俺を虫けらのように扱うかもしれない。

こんなことを考えながら、勧誘の森を潜り抜ける。
このメインストリートとかいう道をまっすぐ進めば、今日入学式が行われる大学の講堂につく。
皆スーツ姿だ。
よく新人のスーツはどこかおかしいと聞くが、俺には少しもそんな風に見えない。
それは自分も新人だからかわからないけど、明らかにみんな大人だ。
昨日まで高校生だったとは思えない。
髪の色も明るいからだろうか。
どうせ学長が挨拶でいうであろう「夢や希望」に溢れているのだろうか。一方「不安な気持ち」もあるのだろうか。

中に入るといかにも大学らしい数の椅子があった。
一年間でこんなに多くの学生が入学するのか。
難関校とはいえ、沢山合格するんだな。
とりあえず、テキトーに空いてる席に座る。
当然自分の隣には誰も座らない。
いきなり他人の隣に座ってくるような人は日本にはいないだろうな。

「すいません。ここ空いていますか?」
変な人も居るんだな。
別に構わないという答えを出すと、そのキラキラした女の子は同じような女の子を三人ばかり連れてきて、座った。
何やら楽しい話をしているみたいだが、ときおり混ざっている方言でうまく理解できない。
方言って爺さんや婆さんが話す言語だと思っていたが、若い人も話すんだな。
彼女たちは俺の存在を気にせず、おしゃべりに興じていた。
入学式前なのになぜ友達がいるのだろうか。
高校の時の友達か?
いや、そんなはずはない。
俺がわかる範囲でも、一人は関西弁だけど一人は東北っぽい言葉を話す。
なにより会話の内容はそれぞれの地元の話とか、田舎から出てきたのでイントネーションがおかしいので許容してほしいというようなものだ。

ああ、確か学科別交流会なんというものがあった気がする。
成るほど、そのような交流会に出ないと、入学式ではさびしい思いをするのか。
皆がするから俺もするというのが俺は嫌いだった。
だから人と同じことをしないように心掛けていた。
しかし、大学という場所ではそれは損をする。

とにかく、式は無難に始まり、無難に終わった。
どこの馬の骨かもわからない“来賓”のありがたい話を聞いてはやく式が終わることだけを考えていた。

式が終わって帰ろうとすると、また勧誘がきた。
しかしこれは執拗に迫られ、新歓に行くと約束してしまった。
どうやらテニサーというらしい。
テニスは興味ないけどご飯をおごってもらえるし、まあいいかと思った。
嫌になったら行かなければいいことだ。

新歓は駅の近くにある中華料理屋でやるというので、そこまで見事に勧誘に引っかかった新入生たちと方言の話、学部の話、とりあえず当たり障りのない話をしながら移動する。
一人では絶対に来なそうな店内に入ると、もう既に何人かがいた。
彼ら、彼女らも押しには勝てなかったようだ。
「全力で楽しんでいきましょー」
程なくして新歓が始まった。
皆お酒を飲むと陽気になるからだろうか、とても楽しそうだ。
俺も、そんななかつまらなそうにするのも悪いし、ノリが良いやつを演じる。
一応、それくらいの演技はできる。
笑顔で話題盛り上げたり、ボケてみたり。
ただ、これが本当に“全力で楽しむ”ことなのかはわからない。
そもそもコロケーションの問題で、“全力”の後にポジティブな言葉が続くはずがない。
今まで、“全力で”頑張ったり(とてつもない苦しみを伴う)、我慢したりしたことはあるが、心から楽しんだ覚えはない。

そういえば、高校でも行事を楽しんだ覚えがない。
いや正確に言うと、歪んだ楽しみ方をしていた。
俺は行事によって授業が潰れることを喜んだ。
学祭に関しては準備の時間を取らなくてはいけないので、授業がより多く潰れた。
だから学祭期間中に一番楽しめなかったのは、学祭当日だった。
その日が終わればまた授業が始まってしまう。
とはいえ、みんなが楽しそうにやってるなかつまらなそうにするのはいかがなものかと思い、演じていた。
演じてはいたが、やはり演じているうちにそのキャラクターに感情移入してしまうのだ。
しかし一方で自分の内部からその演技を観察する目があって、結局完全に同化することはできないのだ。
俺は小さいころからこういう、ひねくれた人間だった。
夏祭りに行っても、会場から少し外れた公園でたむろしていた。
それが楽しかったとは言わない。
しかし、夏祭りに誘われた手前、行かなくてはいけないので、そこが最善の場所だった。

両親からお前はひねくれ者だ。もっと素直に喜べばいいのにと言われてきた。
しかし、自分にとって素直とはひねくれることだった。
それが唯一演技をしていない自分だった。
逆にみんな本当に“全力で楽しんでいる”のか疑問だった。
漫画の主人公みたいに、単純に喜怒哀楽を出すのだろうか。
人間ってそんなに単純な生き物なのだろうか。

 次の日起きて、真っ先に携帯を見る。
これはずっと習慣になっていることで、中学の時とかは、友達とメールしながらいつの間にか、俺が寝落ちしていることがあったので、そのことの謝罪メールを送るのが日課だった。
最近は誰かとメールをするなんていうことはなくなったが、未だに携帯を見る習慣は忘れていない。
「新着メール六件」
迷惑メールは来ないので、これらはそれなりに意味があるメールだ。
というわけで、確認を始めた。
一件は中学の友達からのアド変。
もう一件は母からの業務連絡。
四件は昨日の新歓で連絡先を交換した人たちからのマイミク申請だった。
とりあえず、作業的にそれらを処理する。
マイミク申請も特に理由はないのですべて許可し、これからよろしくという旨のメッセージを添える。

今日は大学での初めての授業がある日だった。
履修のことや大学の授業そのものを理解していないが、とにかく今日は学校に来なくてはいけないらしい。
メインストリートをしばらく歩けば、講義棟が見えてくる。
まだ、どこがどこかわからないが、なんとか目的地に着くことができた。
教室は大教室で、後ろの方は満席状態だが、前の方は意外と空いている。
この教室にいる学生は、昨日入学式でみた人たちと同じなのだろうか。
私服を着ているというのもあって、急に幼く見える。
中には頭がプリン状態の人もいてみっともない。
ともあれ、前の方の空いてる席に座る。
後ろの方の席からは楽しそうな会話が聞こえてくる。
思うと自分の後ろからこれほどたくさんの声が聞こえてくるのは初めてだ。
特に見知った顔も居ないので、一人でいるわけだが、そんな自分の状態を後ろの集団は陰口をしている。
作品名:悪魔の証明 作家名:ダストボックス