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忘れていた風景

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パスタを茹でて、冷蔵庫から出した朝のホワイトソースの残りを温めた中に入れ、それを口に入れながらまた飲んでいる。
ミニメールがまた来た。
「見えてますよ。朝のパスタを食べながら水割りを飲んでるでしょ。お見通しよ。
パスタはわりと太らないというけど、本当かしら。わたしもあとでお店へ行って食べます。
一人分を作るのって、やる気が出ないのよね。おやすみなさい。      ミー様より」
 何度も原島里子とは絵を描きに行った。それを、中野は眠る前に想い出した。もはや風化しつつある記憶は、断片が残っているだけである。
 多くの樹木に囲まれた池のある公園へ行くことが多かった。由緒ある大きな古寺が、
幾つも点在する街も訪れた。港の風景を描きに行き、急に雨が降ってきたことがあった。倉庫のひさしの下で辛抱強く、叩きつけるような雨があがるのを待った。
ファーストキスは、そのときだっただろうか。それとも、寺院の奥の池の畔だっただろうか。或いは、夕暮れの砂浜だったのかも知れない。里子に再会したならば、そんなことをきいてみたいと思う。きくべきではないようにも思う。
ふたりで紅葉の風景を描きに行ったのは、湖が見えるところだったような気がする。
長く続くけやき並木も描きに行った筈だが、それが一人だったのか、ふたりだったのか……。
作品名:忘れていた風景 作家名:マナーモード