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かいかた・まさし
かいかた・まさし
novelistID. 37654
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海人の宝

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沖縄 名護市 辺奈古岬沖海上

 八月の炎天下、そこでは、漁船、カヌーボート、合わせて数十隻と環境アセスメント調査船と海上保安庁の巡視船が睨みをきらしていた。

 調査船は、埋め立ての対象となる海中の調査をしなければならない。だが、そこは漁船とカヌーで占拠された海上。手出しも前進も出来ない。巡視船から拡声マイクで、妨害行動をやめ海上から撤去するように何度も呼びかけが行われている。
 海の上の空ではマスコミのヘリコプターが数台、その様子をカメラに収めようと撮影している。
 もちろん、妨害が目的で集まった船団なので、一切、そこを動かない。浮遊したままだ。
 漁船の上に、一人の漁師がいた。名は、水島龍司、三九歳の日に焼けた男。身長一八五センチで離婚歴二回の元商社マン。生まれ育ちは東京である。
 命懸けでこの海を守る決意をした男。さて、どうなるか。

 と、その時、一隻のボートが妨害船団と巡視船、調査船の間をぬうように割り込んできた。ボートの上に乗っているのは、黒いシャツを着た大男。ボートには機関銃が備え付けられている。キャンプ・ヘナコの海兵隊員だ。なぜ、海兵隊員が。
 ボートは、妨害船団の目の前で止まり、機関銃の銃口を向ける。
 即座に発砲した。周囲に炸裂音が響く。カヌーは次々とひっくり返る。
 ああ、何てことだ。龍司は漁船の中で、他の乗船員と共に身を平伏したが、即座に海中に飛び込み、得意の潜水泳で海中を移動した。目指すは、狂った海兵隊員のボートだ。
 龍司の手で、この暴挙を止めなければ、この隊員のことはよく知っている。
 ボートの真下に着いた。丁度、船尾だ。さと起きあがり、飛び魚のように跳ね上がり船上に入った。
 それに気付いたのか、白人で筋肉質な体格をした大男は龍司の方を見つめる。お互い知っている仲のせいもあってか、大男は、にこっと微笑んだ。
 龍司は怒りを爆発させ、全身の力を絞り男の顎にパンチを加えた。男は、どたっと倒れ込んだ。
 ああ、何てことだ。どうして、こんなことにまでなったのか。


 物語の全ては、数年前に始まる。それは、同じように龍司が怒って人にパンチを食らわせたことを発端としてのことだった。場所は、千葉の幕張メッセ。殴った相手はアメリカ人で龍司の上司であった。

龍司は、毎日の満員電車による通勤が酷でならなかった。片道二時間かけて府中から、千葉の幕張まで行く。この仕事に就く前まで、大学を卒業後、職場を四回変えた。これまでは都内であったので一時間以内で通えたが、今度は二時間もかかる。引っ越そうかとも考えたが、引っ越すためのお金が十分にない。
 前に勤めていた会社は、水産関係の貿易会社で仕入れを担当していた。だが、入社後四年が経って倒産。失業保険で就職活動をして暮らした。丁度、保険の支給が切れて生活費も底をついた時に、その殴った上司から電話があり採用の知らせがきた。
 面接に行った時、とても遠いなと思っていたが、それでもやも得ぬ、選択の余地はないと考え採用を受けた。
 龍司が採用された最大の理由は、英語力だったらしい。それは、これまで採用を受けたところは、どこもそうだった。
 出身大学は三流とはいえないが、一流にはほど遠い二流クラスの大学。卒業後の進路を憂い、大学時代交換プログラムで半年間カナダへ語学留学をした。卒業後、就職が決まらず、それならばと思い、さらにイギリスへ半年間語学留学をした。
 もともと英語は、中学時代から得意な科目であった。だから、社会に出てビジネスマン並みにぺらぺらと喋られるようになりたいという想いがあり、また、その方が就職に有利だと思った。
 留学先では、生活に密着しながら一気に会話力を磨いた。カナダでもイギリスでも、すぐにガールフレンドができたため、そのことが上達を大いに助けた。
 龍司は、子供の頃から女性にもてるタイプであった。背が高く、顔もイケメンだといえる。
 もっとも、付き合っても長続きしないのが問題であった。なので、結婚までして一年足らずで離婚したことが二度もある。性格が短気で、やたらと自己主張が強い。そして、平気で浮気もする。それが自分の誇れるところと思い上がっているので、さんざん離婚された女性にこき下ろされても、その性格は直らなかった。
 そして、就職も、いつも務めては長続きがしなかった。正社員として雇われても、一年か二年で退職せざる得ない状況になった。上司、同僚、クライアントと揉め事を起こしてしまうのである。
 さすがに四番目に務めた前職では、そんなトラブルがないように慎重に振る舞ったが、会社が倒産して転職先を探さなければならなくなった。
 しかし、そこは今までになく酷だった。会社は米国系のビジネスコンサルタント企業で、日本の小売業者にアメリカ流の利益増進プログラムを提供することを事業内容としていた。
 龍司は、営業を担当したが、日本語が話せないアメリカ人上司の通訳や翻訳も担わされた。いわば彼のアシスタントであった。アメリカらしく彼をファーストネームのピーターと呼んでいたが、性格は最悪であった。
 龍司以上に短気で、やたらと注文が多い。ミスをすれば激しくどやす、同僚やクライアントがいる前でだ。
 そして、務めて三ヶ月後、龍司は我慢が頂点に達した。
 それは、会社でクライアントのための物産展を幕張メッセで催すことになった日だ。メッセは、会社の隣にあるビルで、クライアントと共に頻繁に利用しているコンベンション・センターである。
 その日、いつもの出社時間より早くメッセに行かなければならなかった。入社後、何度かそういうことを経験したので、予定の時間に合わせてアパートを出たが、問題は、通勤電車が人身事故にあったため、大幅に遅れたことだ。おそらく、ホームに誰か自殺で飛び込んだんだろう。こんなことは、何度も経験があったが、いかんせん、その日の物産展は、会社としては最も大事なクライアントのためのものである。
 遅れることをとりあえず、携帯電話で知らせたが、ピーターは「出来るだけ早く来い」と言い返すだけだった。
 一時間遅れでメッセに着いた。だが、ピーターはかんかんであった。龍司が通訳を務めて訪問客に披露するデモンストレーションがキャンセルになったためだ。
 ピーターは龍司に、アメリカ英語で、こう言い放った。
「君は、もう必要ない。二度と顔を見せるな」
 その言葉に龍司は怒りを爆発させ、ピーターのネクタイを引っ張り、即座にパンチを食らわした。
 その後、龍司はメッセを出て、近くの海浜公園をほっつき歩いた。砂浜の海、それは東京湾岸であった。そんな海を眺めながら、前の会社にいた時のことを想い出した。十ヶ月ぐらい前、だったろうか。取引相手で沖縄の会社の男と知り合い、一緒に飲まないかと誘われたのだった。
 その男が東京を訪ねたら必ず通うという都内の沖縄料理店に行った。思い出す、沖縄の美しいエメラルドグリーンの海の写真が店内に貼られていた。
 湯割りの泡盛を飲みながら、話しは弾み、龍司は冗談半分で「いやあ、こんな美しい海の上で一日中働けるのなら最高だな」と話した。
「漁師になりたいのか」
と男がいうと、龍司は
「是非とも」と酔った勢いで応えた。だが、男は
作品名:海人の宝 作家名:かいかた・まさし