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郷田三郎(G3)
郷田三郎(G3)
novelistID. 29622
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朝刊

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<朝刊>


「おはよう!あなた起きて。」
 そう言いながら美咲がカーテンを勢い良く開けた。

 私は朝日のまぶしさに顔をしかめながらベッドの傍らにある目覚まし時計を見た。
 セットした時間を二十分も過ぎている……。

「うふふ……わたしが止めておいたのよ。あなた昨日も遅かったんでしょ?」
 目覚めは悪くないはずの私だが、起き抜けにはさすがに反応が鈍い……。

「今日はわたしが朝食を作ったわ。夕べは早く寝すぎちゃって、とても早く目覚めたの」
 美咲は私より早く起きられた事が事の外嬉しいようだ。

 ここニ年ほど、朝食を作るのは私の役目になっているのだが、美咲はそれを気にしているのかも知れない……。

 美咲は私を急かすようにダイニングへ追い立てたかと思うと、今度は私を追い越してキッチンに向かう。
 ダイニングには既に、淹れたてのコーヒーの香りが漂っている。
 テーブルにはコーヒーカップだけが湯気を立てていた。

 私は言葉に甘えて椅子に着き、少しだけ冷めかけたコーヒーを啜る。
 ここに来てようやく目が覚めて来た気がした。

 美咲はフライパンを火にかけるとトースターにパンを入れツマミを廻す。
 私の勘が当たっていれば今日の朝食はベーコンエッグスのはずだ。
 昨日は私がスクランブルエッグを作ったし、一昨日はフレンチトーストだった。

 どうやら予想は当たったようだ♪

 卵をフライパンに落とすと、美咲は振り返って私を見た。
「ねぇ見て、新しいエプロンを買ったのよ。ちょっと良いでしょ?」
 機能性よりファッション性を重視したデザインのそれを美咲は少し広げて見せた。
「うん、なかなか似合ってるよ」
 私は指一本で眼鏡を直した。

 美咲がしょっちゅうエプロンを買うことについて文句を言う気など無い。
 むしろ仕方がない事なのだと思っている。

 私は少し焦げ臭い匂いを出しているトースターからパンを取り出すと、あやうく焦げる寸前まで焼かれたトーストに自分でファットスプレッドを塗った。
「あ~、ごめんなさい。またやっちゃったわね」
 こんな時にあまり気にしていない風なのはむしろ私には好ましく思えた。

 ひととおりのモノを出すと、美咲はテーブルの余ったスペースに新聞を広げた。
 途中から開けたところを見ると、私が起きる前にも読んでいたらしい。

「ねぇ昨日も阪神が勝ったんだって。今年は巨人、ダメかしらね?」
 少し舌足らずの美咲の声が私が大の巨人ファンなのを知っていてわざと読み上げる。
 フン、そんな事は夕べのニュースで知っているし、キミは巨人の監督の名前さえ知らないくせに……。
 その後も美咲は新聞の記事を自分の興味のあるところをさらって私に聞かせてくれた。あまりゆっくり新聞を読むことが出来ない私へのサービスのつもりなのかも知れなかった。

 いつもより余裕のある朝食を済ませた私は、洗面台に立った後上着に袖を通し、玄関に立った。
 美咲がついて来て靴を履いた私に声をかける。

「あなた、わすれものよん?」
 そして私を見上げて目を閉じた。

 私は少し大袈裟に腰を折って美咲の頬にキスをすると「行って来ます。キミも遅れちゃダメだよ。」と言って玄関を出た……。


 妻の美咲が交通事故で亡くなってもう二年になる。
 一緒だった一人娘の美冴絵は小学三年生になるが、あれ以来一度も目を覚まさない。

 二年前――。
 小学校に上がったばかりの美冴絵の手をひいて横断歩道を渡っていた母娘に暴走車が信号を無視して突進してきた時、妻の美咲は美冴絵を庇って重傷を負い、生死をさ迷いながら一週間後に息を引き取った。
 そしてその時、外傷は大した事がないのにまったく目を覚まさなかった美冴絵が目を覚ましたのだ。
 妻の霊に憑依されて……。

 そして、私と妻と娘の奇妙な二人暮しが始まったのだった……。

 美咲に後で聞けば美冴絵は植物状態に成りかけていたのだと言う。
 だから放っておけなかったのだと。

 だが、この頃では美冴絵が目を覚ましそうな気がすると言っていた。
 この二年、休まずに身体や脳を使ってきた効果が出てきたらしいのだ。
 目覚めた時に一番大事な教育時期を寝ていたのではこの子が可哀想だと、脳の記憶野も積極的に使うように生活してきたのだそうだが……。

 霊にとって、身体はともかく脳を使うのは難しいらしい。
 手足を動かすのとは違って、脳を使うというのはどうもイメージし難いのだそうだ。
 そのため美冴絵の身体は小学三年生になった今でも、一日に十時間以上の睡眠を必要とするのである。

 朝食の支度を私がする事にしたのはその為だ。
 それはむしろ娘の身体の成長の為だと言って良い。
 起き抜けの小さな身体には忙しい朝の支度は危ないという事もある。

 だがそれももうそろそろ終わるのかもしれない。
 美冴絵が目を覚ましたら、わたしは逝くと、美咲が言っていたのだ。

 何れにしても私達家族には辛い運命だ。
 妻の美咲も、娘の美冴絵も、妻の霊が乗り移った娘も、愛しくて仕方がない。

 だが同時に今の暮らしを早く終わらせなければという焦りもあるのだ。
 夜中に美咲が寝ぼけて私のベッドに潜り込んで来た時……。

 私はいつまで拒み続ける事ができるのか?
 近頃やけに女らしい色香を備えてきた、その視線で見つめられる度に私の心は曇りがちになってしまうのだ……。


 おわり


 2003.06.28  #042
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 キミは早起きしたのがさも得意そうに
 寝ぼけ眼のボクを朝食に追い立て
 「ねぇまた巨人が負けたってさ」って
 高田の背番号も知らないくせに――

 ↑さだまさしさんの<朝刊>という歌が好きでした。
 随分昔の事ですが……。

 今でも時々、鼻歌まじりに歌うのですがこの前会社から帰る途中でふとこんなハナシが浮かんだのでした。
 でも、ホントの始めに出てきたのは、中学生のオカマの息子が珍しく早起きして朝食を作ってくれるというハナシでした。
 でも、あまりにも美しくないので止めました

作品名:朝刊 作家名:郷田三郎(G3)