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戦友に捧げるブルース

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「先生、これがフィリピンパブですよ。今日は貸し切りです」
 私は不快感を露わにした。それは私だって女性のいる店は嫌いではない。しかしよりによって、何故フィリピンパブなのだ。私はこの店を案内した後援会の会長を睨みつけた。
「ほら、こちらは県議会議員の笹本先生だ。みんな粗相のないようにするんだぞ」
 普段は私に媚びるような態度しか見せない後援会長が、フィリピーナたちを高飛車な態度で見下す。
 フィリピーナたちは、金の匂いをすぐさま嗅ぎ付け、煩い蝿のように私の周囲に群がる。カタカナのような日本語の合間に飛び交うタガログ語。彼女たちは我々が理解できないことをいいことに、自分たちの言葉で我々を侮蔑しているに違いない。政治家の端くれである私が、彼女たちに嘲られるのは耐え難い屈辱だった。
「河岸を変えよう」
 私が後援会長にそう言いい、立ち上がろうと腰を上げた時だった。一人のフィリピーナが私の前に躍り出た。
「ゆっくりしてらして」
 私はそのフィリピーナの顔を見て驚愕した。そして幾度となく封印しようとしたが、どうしても封印できなかった忌まわしい記憶が鮮明に、総天然色で甦ったのである。

「君は……?」
「私はモニカ。よろしく」
 本名でないことはわかっている。モニカの顔は私の戦友の面影を湛えていた。そして戦友が戦地で無理矢理襲ったフィリピーナ、恐怖に顔を引き攣らせていたあの現地の女にもよく似ていた。ということは、モニカはその二人の血を引いているのだろうか。
 私は浮かしかけた腰をソファに戻した。レザーの生地が私を受け止めた。
 モニカが私に水割りを作ってくれた。私はそれを口にした。瓶はジョニ黒だが、味はホワイトだ。それでも我慢しながらモニカの顔を繁々と眺める。
(やはり、似ている……)
 私は心の中で呟いた。そして後援会長にフィリピーナにもアルコールを注文するように伝える。

 昭和20年の4月のことだった。赤紙で招集された私はフィリピンの戦地へと赴いた。
 私たちの小隊は相次ぐ米軍の猛攻に、連日苦戦を強いられていた。日増しに強くなる米軍の攻撃は、我々の補給基地を奪った。機銃掃射で私たちの小隊は壊滅的な打撃を受けたのである。
 忘れもしない。黒い点が青空に見えたかと思ったら、たちどころに大きくなり、私たちに鉄の雨を降らせたのである。