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三剣の邂逅

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「世間知らずのお嬢さん、この世の中は綺麗な事ばかりではないんです。私があの二人のために、どれだけ惨めな思いをしたと思いますか?」
 笑顔で尋ねるカーターの瞳は、どこかすごく冷たい。
「クラークは、とても澄んだ心の持ち主でした。人を疑うとか憎むとか、そういった負の感情が一切なく、誰にでも忠実で人を惹きつける魅力に溢れていました。クリスも、天性の明るさと深い思いやりがあって、皆から愛され、いつも笑顔の中心的存在でした」
 カーターの口調がわずかに変わった。
「私には、そういった天性はありませんでした。その上、二人には容姿と文武の才まで備わっていて、私が彼らを上回ることはありませんでした。たった一つを除いては。これがなんだかわかりますか?」
 カーターはライアの返事を待つことなく、先を続けた。
「家柄ですよ。唯一私が、三人の中で最も家柄がよかったのです。しかし、これは私にとってなんの利益にもなりませんでした。むしろない方がよかった。どんなに努力しても、結局は家柄で片付けられる屈辱は、味わった者にしかわからないでしょう。必死の努力で二人と一緒に昇進をしても、私への世間の目はどこか違う、それがたまらなく惨めでした」
 感情的な内容とは裏腹に事務的に語るカーターを、三人は黙って見つめた。
「もうとうの昔に、私には小さい頃のように、なんの隔てなく二人を見ることはできなくなっていたのですよ」
「二人のお前に対する態度も、何か変わったのか?」
 クローブが静かに問いかけた。
「いいえ。二人の態度は、幼い頃と寸分違いませんでした。それが、私には余計に悔しかった。二人の分け隔てない態度までが、私に対する同情のように思えました。そして、そんな自分だけが、どんどん穢れて取り残されていくようにね」
 カーターが急に明るい声を出した。
「そしてある日気付いたのです。この悩みは、二人がいなければなくなるものだと。私の能力は、本当は学問も武術も秀でていたのです。私の上にいるのは、あの二人だけだったのですから。それならば、消えてもらえばいいわけです」
 とんでもない論理はとうてい受け入れられるものではなく、クローブが反論した。
「いいわけないだろ!」
「いや、それは正論だ」
 突如割って入ったのは、国王だった。
「自分にどんなに才能があっても、環境が許さないなら、それを変えるしかないのは仕方のないことだ」
 今まで四人の会話にさほど興味を示さなかった国王が、今は瞳の奥に何か感情らしきものをちらつかせている。そのまま、近くの壁に寄りかかった。
「私には生まれつき才能があった。学問に関しても武術に関しても、兄に引けを取るとは思わない。それに、私には国を正しく統治していくだけの力もある。それは、この国の多くの者たちが保証してくれた」
 薄汚れた石壁が彼の衣装を白っぽく汚していたが、そんなことには気に留める様子もなく、国王は話し続けた。
「私は、自分にどこまでのことができるのか、試してみたかった。歴史に、偉大な王として名を残すことができたらどんなにいいかと思った。しかし、どんなに思い描いたところで、第二王子の私に、そんな日が来ることはないこともわかっていた。その権利があるのは兄上だけだ。しかし、それは不公平だ。そう思わないか?」
 王は四人の方を見ることなく、正面に目を向けたまま尋ねた。
「確かに、兄上にも才能があった。文武とも優れていたし、統率力だってあった。現に兄上は国民皆から好かれていた。……だが、それは私でもできたことだ。機会さえ、そういう場さえ与えられれば、私にだって兄と同じように、いや、兄以上に!」
 だんだん熱くなる国王の言葉が、牢中に響いた。
「せめて、兄上と全く同じ機会を与えられ、正々堂々と競って負けたのだったら、割り切れたのかもしれない。しかし私の中では、兄上の成功は、全て第一王子として生まれたからにすぎないとしか、見ることができなかった」
「……それで、自分のお兄さんを殺したの?」
 震えるライアの肩を、クローブがそっと抱いた。ライアには、国王の言っていることを理解することはできなかった。確かに、人が弟や妹ととして、兄や姉から一歩遅れて生まれてくることは、本人には不可抗力のことだ。選んだ訳ではないのに、生れ落ちた順番という環境だけで、先に生まれた方にだけ権利が与えられるのは、確かにおかしい。
 だが、それで自分の兄弟を殺す?
「なるほど、だんだん見えてきたな。要はあんたは、王様のこんな考えに共感したわけか」
 クローブが皮肉たっぷりにカーターに目を向け、カーターもにっこりと微笑み返した。
 続いてクローブは、呆れたように国王を見た。
「あんたの言い分はわからないでもないが、そんなのは、どこの国でも同じだ。第一王子以外の皆が皆お前のような考えを持ってたら、国なんて立ち行かないだろう」
「そんなことはわかっている。だが、私のように感じている者は、きっと数多くいるだろう。ただ、皆勇気がないだけだ」
「するとあんたは、その勇気溢れた英雄なわけか」
「別にそこまでうぬぼれてはいない。ただ、改革は必要だといったまでだ」
「なるほどな」
 クローブがまっすぐに国王を見返した。
「だが、あんたはその改革の方向を間違えた。あんたがしたのは改革でもなんでもない。ただの卑怯な小細工だ。なんだかんだ言っても、あんたは兄貴と真正面から戦うことを恐れたんだからな」
「何っ!」
 いつになく挑発的なクローブの言葉に、冷静を装っていた国王の表情が変わった。
「だってそうだろ。もし堂々と戦う気があるなら、その考えを兄貴に話して、正面から世継ぎ制度そのものの改革にでも乗り出せばよかったんだ。ただ単に第一王子に継承権を与えるというのではく、なんらかの条件を定めて、それに見合う能力のある者の中から等しく選ぶようにするとかな」
 クローブの言葉を、国王は鼻で笑った。
「ふん、これだから何も知らない奴は。私だってそれぐらいのことは考えたさ。だがな、それがどんなに大変なことか、わかるまい? どこの国でも、上層部にいる連中は頭の固い奴ばかりだ。それでいて、力だけは持っている奴らがな。例え王権国家でも、そいつらは何かを変えようとすると、進言と称して、必ず文句を言ってくる。そいつらを納得させるのは、不可能に等しいんだ」
「要は、その手間を惜しんだんだろうが」
「なんだと! 国のことを知りもしない奴が、知ったような口を利くな!」
「まあ、あんたがいう上層部のお偉いさんのことは、確かに俺にはわからないな。ただ、それがとんでもない手間を要することぐらいはわかるぜ。世継ぎ制の改革に乗り出したら、この国の世襲制にまで手をつけなきゃならなくなるかもしれない。王族だけ世襲をやめたら、国民だって納得いかないだろうしな」
 国王が、驚いたようにクローブを見つめた。
「貴様、一体何者だ? どこでそのような知識を……」
 たまらずクローブが笑い出した。
作品名:三剣の邂逅 作家名:夢桜