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　薄暗い、四角く小さな一室。
　たった一つしかない窓脇に椅子を寄せ、一人の男が、銀色の格子ごしに、窓の外を眺めている。
　空しか見えない四角い箱の外に向けられた瞳に生気はなく、虚ろな眼差しには、ただ燃えるような空の色が映るばかりだ。
　わずかに吹き込む風に紛れ、男の耳に、懐かしい声が聞こえてくる。
　男の意識は、はるかなる過去へと飛翔していた。
　見事な夕闇の下に広がる、見渡す限りの草原。そこを行く、三人の童たち。
「はやくはやく」
「置いてっちゃうぞ」
「待ってよ！」
　前を行く二人の足は早く、後を追う少年の声は、あまりにも小さい。
　早く追いつきたいのに、まるで鉛のように動かない足に唇を噛む。
　いつも二人の背中を追ってばかり。
　いつも、いつも自分だけ……。
　足を止め、俯いた自分の影に二つの影が重なる。
　顔を上げると、そこには、いつものように、差し出された小さな二つの手と、とびきりの笑顔があった。