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狂言誘拐

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ヒッチハイク



中野は蒲田駅のタクシ―乗り場に、大きなバッグを持って現れた初老の男を乗せ、午前三時に横浜駅近くの平沼橋まで行った。急に停止を命じられて交差点の中で止まった。支払いはすぐに済んだのだが、乗客は財布の中を何度も確認している様子だった。中野はトランクの開け閉めのためにシートベルトを外した。だが、ときどき交通量が多くなるので、車の外には出にくいと思った。その気持ちを読んだように、初老の男は、降りなくても結構ですよ、と云った。車外に出て後部荷物室のふたを開けた男は、何かを探しているのかトランクを閉めるまでに数十秒を要した。そして、振動と共にトランクが閉められ、男は大きなバッグを持って住宅街の方へ消えて行った。
 中野は日中買っておいたトイレットペーパーを運び込むために、会社に戻る前にアパートに寄るつもりでいた、帰路についた十分後に、後部トランクで異常な音が鳴り響いているのに彼は気付いた。
 慌てて車を停め、車から出てトランクを開けて見ると、目覚まし時計がけたたましく鳴っている。そして、見た覚えのない黒いバッグが入っていた。それには貼り紙がされていた。
「中野清さんにこれを差し上げます」
そう、書かれていた。
 
作品名:狂言誘拐 作家名:マナーモード