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喫茶サボテン

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いつものように窓越しに山手線が姿を見せた。
平日のこの時間帯とは違って家族連れが目立つ。

活気を帯始めたばかりの日曜のアメ横を眼下に、ゆっくりと発車する。

上野、御徒町という土地柄だろう。
アメ横の商人たちの声と、通りを行く人々の声とが交錯する。
一般人とない交ぜになる下町特有のカオス。

店先にテーブルを並べた大衆居酒屋では、
コップ酒片手にモツ煮をつまむ客で賑いを見せる。

出張帰りとおぼしきサラリーマンは、個室ビデオ鑑賞店からそそくさと出てくる。
老舗ジーンズショップの店員は、意気軒昂に行き交う人を店内へ導く。

上野界隈が奏でる趣や会話には、良く言えば余分な「艶」がない。
ギラギラとせず、どこかマット。
下町情緒が先行する適度な「艶」で、街は包まれている。

池袋や渋谷、ましてや丸の内のそれとは違う。


昭和の面影を残すアメ横の純喫茶は、レトロモダンそのものといった佇まいだ。
アメ横の一等地にありながら、際立つ存在感はない。

店内へ一歩入れば、時代は昭和の趣で包まれる。

大きなシャンデリアは決して奇を衒ったわけではなく、
角張ったソファや壁面のタイルなどと調和する。

芳香剤の匂いが少しきついトイレはご愛嬌。

サボテンは変わることなく、時代に溶け込んできた。

蝶ネクタイ姿のあどけない学生ウエイターやウエイトレスは、
その時代を象徴する「なまもの」といったところか。

* * *

サボテンに通い始めて、そろそろ一年になる。

夜勤明けの身体をリセットさせるために、日曜の午前は決まってサボテンで時を費やす。
通勤で読みかけた文庫本の顛末をここで迎えるというのは、当たり前の日課にもなった。

サボテンの楽しみはもうひとつある。
庶民的な街ならではの人間観察だ。

決まって店のスポーツ新聞2紙をテーブルに広げる常連。
新聞といえば、イヤホンを片耳に競馬予想に興じるオヤジ。

東京の北の玄関口、上野とくれば、観光ガイドを熱心に見るお上りさん。
パチンコ店がひしめくエリアだけあり、開店前に興奮を隠せない若者たちもいた。

大声で商談を始めるのは、昭和通り沿いにある卸問屋の二代目。
たまに、エロい女。

鶯谷から歩いてきたと思われる、ラブホ帰りのカップル。
「もう帰る?」と訊きながら、宵越しのデートプランに花を咲かせている。
好きにしてくれ。


そう、なかでもカップル観察はおもしろい。


いつも笑うふたり。小声で喧嘩しはじめるふたり。

ときに、泣くふたり。携帯電話をいじるだけで終始無言のふたり。

付き合いたてなのか、全く会話の弾まないふたり。
逆に、互いを干渉しない、やりたい放題のふたりってのもいた。
作品名:喫茶サボテン 作家名:OBTKN