~双晶麗月~ 【その5】完
≪もし一度だけ僕の心が泣いたとするなら……あなたの涙を初めて見た時≫
そう囁いて強く、痛いほどに抱きしめる。
私もそれに答えるかのように、強く抱きしめ返した。
「ミシェ、私……」
そう言いかけた時だった。
どこからともなく風が吹いてきて、私とミシェルの周りをぐるぐると回る。ミシェルの体からダークグリーンの光が柔らかく広がる。
ミシェルは私の耳元に顔を近付け囁(ささや)いた。
≪そして僕がもう一度泣くとするなら……あなたが死んでしまった時です≫
そして、力を入れていた私の腕から力が抜ける。
そう、抱きしめていたミシェルは、一瞬にして消えてしまったのだ。柔らかい光と優しい風をここに残し……
「ミシェ………!」
大声で叫んでも、その姿はどこにもない。
ミシェルが消えたその寝室は、閉めてあったはずの窓が開いており、優しくふわりと入ってくる風が、カーテンを大きく揺らす。
そしてそこから見えたのは、大きな白い満月。
「ミシェル………!」
窓から私が叫んだ時だった。
【咲夜……あなたをずっと忘れない……】
脳裏に響くその声は、恐らく今までで一番優しい声。
【ミシェル……!】
開け放された窓からふわりと入ってくる風……
気付けば私は、今までにないくらい大声で泣いていた。
まるで、ミシェルに届けと言わんばかりに。
作品名:~双晶麗月~ 【その5】完 作家名:野琴 海生奈