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スタル・チャイルド

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「・・・ヅ・・・ワイヅ・・・聞こえるかい」
聞き慣れた"大人"の声が聞こえた。うっすらと目を開くと見慣れた白色の天井が見えた。「やあ、ワイヅ。起きたかい?手術は成功だ」
ぼんやりとした頭を抱えながら僕は起き上がる。何か身体に違和感があった。
「手術・・・?」
僕は驚いた。声が僕の声ではないようだった。僕の声はもう一段階ほど高かったはずだ。「手術だよ。少年から青年へと変わるための手術だ」
ああ、そうだ。僕は確か少年だったんだっけ。それで、もっと強くなるために子供と大人の中間の青年になるための手術を受けたんだっけ。

僕はワイヅ。名付け親とか生みの親とかは知らない。気がついたら、この国の特別兵「スタル・チャイルド」だった。「スタル・チャイルド」はこの国の特別な兵士。大人ではない兵士。僕みたいに、手術を受けて成長が止まってしまった兵士。
僕は、その兵団にいるんだ、もう何年も。何年生きたかなんて数えていない。銃を撃ち、人を殺してばかりの日常であり仕事。でも、それが僕・・・いや、僕ら「スタル・チャイルド」の運命。そして「スタル・チャイルド」は感情も何も持たない。持つ必要がない。ただ銃を撃ち、剣を振るい人を殺すだけの日常。
でも僕はいつか見つけたいのだ。
成長する普通の人間のような感情を、見つけたいのだ。



僕は新しい部屋に案内された。二階建てで煉瓦造りのシックな建物だった。
「僕が・・・ワイヅ・・・」
僕は自分の手のひらを見た。見知らぬ、大きな褐色の手。僕は生まれつき褐色の肌だ。ここが砂漠に近いということもあるのだと思う。シャワーを浴びて、自分の身体を見た。褐色の肌に、銀色の髪、いつも生意気だと言われている赤い瞳。いつもは見慣れているけれど、身長が突然伸びたせいだろうか、まるで自分が自分で無い気がした。
『コンコン』
ドアを叩く小さな音が聞こえた。僕は急いで身体をタオルで拭き、服を着た。そして扉を開けた。・・・誰もいない。すると僕の服を引っ張る力を感じた。何かと思って下を見るとどこかでみたような少年がいた。僕は人の顔を滅多に覚えない。だからこの少年の事も知らなかった。いや、でも少年の方は僕を覚えていたのかもしれない。
「お前、ワイヅだろ?」
少年は僕を見上げて言った。
「手術、受けたんだ?そんなに大きくなっちまって」
少年はそう言うと僕に屈託のない笑顔を向けて、面白そうに笑った。
「なあ、知ってるかワイヅ」
「何を?」
僕は前屈みになって少年の顔の位置と自分の顔の位置をそろえた。ああ、僕はこんなに大きくなったのか。今更になって僕は気がついた。
「手術受けると、<相方>が付くんだぜ」
「<相方>?」
「そうさ。で、いいこと教えてあげるよ。俺、多分明日死ぬから」
死・・・屈託のない笑顔を浮かべる少年とはほど遠い単語だと僕は感じた。しかし、僕らは「スタル・チャイルド」。初めから生きてなどいないのだ。生きていると扱われていないのだ。
「そうか・・・で、なんなんだい?」
クククッと押し殺したように少年は笑うとヒソヒソと言った。
「ワイヅの<相方>、別名『異端者』なんだってさ」
「・・・『異端者』?」
「そ。手術を受けた女の子・・・いや、ジョセイって言った方がいいのかなあ?とにかく、考え方がおかしいらしいぜ。気をつけな」
じゃあな、と少年は言うと立てかけてあったライフルを細い腕で慣れた手つきで持った。
「待て」
僕は背を向けた少年を引き留めた。
「ん?」
「どこへ・・・行くんだ?」
僕の問いに答えはないのかもしれない。だが何だろう、この空虚な感覚は。答えが出ればこの空虚な穴の感覚も埋まる気がする・・・
「どこって、僕らに行くトコも、居場所もないじゃん」
ニッコリと笑って少年は行ってしまった。
僕はただ呆然と立っていた。

ムナシイ  カナシイ

虚しい?悲しい?何だ、この気持ちは。ボロリと僕の手に水がたたきつけられた。
「・・・?」
僕は無意識のうちに一筋涙していたようだ。なぜ涙がでるのか。ムナシイから?カナシイから?分からなかった。少なくとも、今の僕には。

『ダンッダンッダンッダンッ』
僕は何も考えないようにするときはいつも銃の練習場に行っている。最も、僕は普段何も考えてないのだが・・・・ただ、さっき流した涙の意味が分からなくて、でも分かってしまうのが嫌で、僕は練習場で愛用のリボルバーをぶっ放していた。
しばらくすると隣で
『バババババババッ』
と機関銃を鳴らす音が聞こえた。僕は音の鳴る方へ行ってみた。この練習場で機関銃を使う「スタル・チャイルド」は珍しいからだ。
機関銃を思い切り撃っていたのは、本でしか見たことのない東洋の赤い武者姿をした金髪の女の人だった。少女ではないけれど、“大人”の女性にも成りきれていない、そんな年齢に見えた。
「ふう・・・久しぶりに撃ったからですかね・・・全然だめです・・・」
と、その人は僕を見て
「すみません、そこにあるタオル取ってくれますか?」
と手をだした。
「これ?」
僕はタオルを手渡す。その人は僕とは違い、褐色の肌ではなく、真っ白な肌だった。瞳も紅くない。どこまでも蒼い空のような瞳だった。
僕の視線に気がついたのかどうしたのか、その人は僕の顔をいきなりマジマジと見た。そして背を向け、書類と思われる封筒を取り出して
「ああ、貴男なんですか」
と、にこやかに振り向いた。屈託のない、今日見た少年のような笑顔だった。ズイっとぼくの顔に顔を近づけた。
「な、何が?」
僕は女の人が苦手だ。どう対処していいのか分からないのだ。
「ふっふふー。これ見てごらん」
と、僕は一枚の紙を受け取った。そこには僕の名前と写真その他諸々の僕に関する情報が書かれていた。東洋の方から来た女の人のようだ。そういえば、僕・・・・この女の人に見覚えが・・・・
「ワイヅ君・・・ですね?」
「は、はい。えっと貴女はたしか・・・」
「リベラジュリネア。リールで構いませんよ。そして」
そこでリベラジュリネア・・・・リールは僕に向かって手を出して
「貴男の<相方>です。どうぞ宜しく」
ウフフッ、とリールは笑った。
「よ・・・よろしく・・・」
僕はおずおずとリールの手を握りしめ、握手を交わした。

これが僕と、哀しい「人間」との出会いである。


リールはとても凛々しい人間だった。
そして、とても人間らしかった。

「ワイヅ君はずっとここに居るんですか?」
「そうだよ」
「ハンドガンを使っていたようですが・・・ライフルの狙撃とかは?」
「出来るよ」
そんな会話をしていると、突然リールは立ち止まった。
「どうして私に質問しないんですか?」
と、少し怒ったように僕を睨んでいた。手に持つ機関銃と、背中に背負っている三つ叉の矛が威圧感を増していた。
「どうしてって・・・特に何もないから・・・」
「何もって・・・今日から私達は<相方>同士なんですよ?知っておくべきことはあるで・・・」
そこでリールは言葉を切って、きょとんとした顔をした。そして突然笑い出したのだ。
「あはははははは、そうですよね、貴男はまだ『死んでいる子供』ですからね」
作品名:スタル・チャイルド 作家名:ユウグレ