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市来編

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 市来さんと一緒に買い物を行ってから2日後――

 ついにこの日がやってきてしまった!

 何かの冗談だと思いたいし、もしかしたら途中で本物のモデルさんが現れるかも! なんて思ったりもして……。勿論、自分に出来る精一杯の努力はしてきたつもりだけど、でも、私がメインのモデルとして起用されるというのは、やっぱりどうしたって踏ん切りがつかない部分もある。
 秀麗さえ変な妨害してこなければ、こんな事にならなかったのに! なんて内心で恨み言を吐き捨てつつも、足はちゃっかり指定された撮影スタジオに向かっていた。


 スタジオは美成堂本社ビルのすぐ近くにあって、美成堂関連の物は大概はここで撮影されているらしい。緊張しながらスタジオ内に入ると、市来さんは既に来ていてスタッフさん達に何やら指示を出していた。

「おはよう御座います!」

 私がそう言うと、中にいたスタッフさん全員が挨拶を返してくれた。有難いけど、それがますます緊張を高める……。

「おはよ、水那!」

 思わず震えそうになった私の耳に、聞きなれた声が届いた。振り向くとそこには勿論――

「カレン!」

 今日もばっちりキマッてるカレンがそこに立っていた。

「水那のメイク担当、私になったんだ。なんかね、きっと水那は緊張でガッチガチになるだろうから、少しでもリラックスさせようって事で社長命令が下ったのよ」
「しゃ、社長が?」
「そ。まー、社運かかってるしね〜」

 なんて言いながらカレンはにっこり笑う。そっか、社長が……。もちろん会社の為に最善を! って事なんだろうし、それは十分に分かってる。でも私の事も少しは考えてくれたのかなって思うと、なんだか温かい気持ちになった。

「じゃ、市来さんはあの通り忙しそうだし、水那はメイクメイク!」
「わわ! ちょっとカレン、押さないでよ〜!」

 カレンに背中をぐいぐいと押されながら、私はメイク室へと向かった。


作品名:市来編 作家名:有馬音文