小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
かいかた・まさし
かいかた・まさし
novelistID. 37654
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

遠い遠い記憶

INDEX|1ページ/4ページ|

次のページ
 
地質学者のリヒャルトは、地下600メートルの穴倉にいた。

ここは、とあるヨーロッパの国の森林地帯の真下にある。何でも、高濃度核廃棄物を埋蔵し保管する施設だそうだ。核廃棄物は、原子力発電所から送られてくる。世界中に25万トンあるとされている。その多くは、このような地下埋蔵施設に送られ保管されるのだそうだ。

核廃棄物は、キャスクと呼ばれる金属とコンクリートの容器に入れられ運ばれてくる。リヒャルトは、この施設の建造における掘削のための地質調査員として雇われた。当然のことだが施設は頑強に造られなければならない。そのためには、掘っていく地層の地質を綿密に調べる必要がある。主に粘土層と呼ばれるところが最も適しているといわれる。

なぜ、こんなに地中深くに埋めて保管しなければいけないのか、それは核廃棄物は地上で保管するには大変危険な代物だからだ。いざ、廃棄物が空気中に放たれると、大変有害である。放射能を撒き散らし、人体や生物に害をもたらす。被曝により細胞の遺伝子が傷つけられ、例えば、癌や白血病を患わせ、妊婦が受けると胎児は障害を持って生まれてくることがある。場合によっては、死に直結することもある。

だから地中に埋め込み、そんな危険物を閉じ込めてしまおうという考えなのだが、この施設は、他の地下施設とは、ちょっと違った複雑な事情がある。それは、施設を完成させ、廃棄物で満杯にした後、封印をする。その後は、半永久的に誰も立ち入らせないようにしなければならない。

なぜか。

核廃棄物が無害になるためには10万年もの歳月が必要になるからだ。核廃棄物は放置できない。確かにキャスクに入れられ放射能は閉じ込められているが、キャスクの金属やコンクリートは劣化していき、1000年もすれば亀裂が入り、そこから、漏れが起こることになると予想される。そうなったら、施設の中は放射能で充満する。その放射能が地上に漏れないように、しっかりと閉じ込めなければならない。施設のある地中は、粘土層という最も頑強な地質をしている。なので、その点は、安心できるかもしれない。

だが、問題なのは、誰かが、封印された施設を、こじ開けるかもしれないということだ。こんな危険な施設に好き好んで入ろうとする奴がいるのか。いるかもしれない。もし、この施設の存在と危険性が誰にも知られることがなくなる未来の時代、誰かが好奇心で入ろうとするかもしれない。

それを防ぐためには、この施設の危険性をずっと知らせ続けないといけない。それも10万年以上もの間、ずっとである。何千もの世代を通して、記憶を伝承し続けなければいけないのだ。果たして、そんなことが可能だろうか。
施設の入り口に「危険だから立ち入り禁止」と標示を立てても、未来の人間が、その言葉や記号を理解できるだろうか。未来永劫に渡って伝承する方法などあり得るのだろうか。

ある日、リヒャルトは、休暇を取ることになった。1カ月程の休養をゆっくり取って、また、戻ってくる手筈となっている。休暇中はどこにいようか、とりあえず家でゆっくりしようと思った。そんな折、友人で考古学者のインディから電話がかかり、仕事の依頼を受けた。南米で、とんでもない発見をしたのだと興奮して話した。

おそらく人類史上、最古の遺跡を発見したのではないか。あのピラミッドよりも古い遺跡に違いないものが、南米のジャングルで発見されたそうだ。地中深くに掘られた地下にあるそうだ。その入り口を見つけたのだと。地質学者のリヒャルトの力がどうしても必要なので、急きょ来てほしいと。

インディは野心家の考古学者であった。これまでに数々の遺跡発掘を成し遂げ考古学者として世界的に名をあげている男だが、それは名誉のためだけではなかった。彼は、考古学者であると同時にトレジャーハンターでもあることで知られているのだ。古文書を元に場所を突き止め、地中深く穴を掘り、そこから過去の権力者が埋蔵した財宝を探し取り出す。それを博物館に研究用に寄付することがあれば、発掘者として財宝を保有し、リッチなコレクターに売っては大金を稼ぐのだ。稼いでは、その金を元手に、さらに発掘をし新たな財宝を探し当てる。

リヒャルトは、これまで何度も、インディの発掘作業の手伝いをしてきた。当然、それなりの報酬もいただいて、とても嬉しい思いをさせてもらっている。だから、少々忙しくとも断ることはなかった。他より優先させても、それだけのメリットは十分過ぎるほど享受できる。休暇などとるのはもったいない。

飛行機とバス、ジープを乗り継ぎ、数日後、そのジャングルに着いた。そこでリヒャルトと数カ月ぶりに再会。相変わらずの自信満々の表情であった。
「リヒャルト、これは大獲りものだぞ。おそらく考古学史上、最大の発見だといっていい。この辺で、ダム工事のボーリング調査をするため掘削したら、こんな入口が見つかったんだ。何とかドアをこじ開けてみたら、地下に通ずる道があって、そのうえ、地下深くに延びる階段とエレベーターらしき空洞があったんだ」
「エレベーターらしき? おい、でもこれって、過去の遺跡だろう。そんなものがどうしてだ?」
「それをこれから探ろうっていうのだよ。俺の分析では、この当たりの地形からして、ここを入り口として、地中深く穴を掘れたのは1万年ぐらい前だと推定される。お前も地質学者だから分かるだろう」
「1万年前?」
1万年前といえば、エジプトのピラミッドやアラブのメソポタミア文明よりも古い。そんな時代に誰が。それほどの科学技術を持った民がいたとなると、それは、明らかに考古学上の大発見になること間違いない。

考古学ではオーパーツという言葉がある。それらが発見された場所や時代とはまったくそぐわないと考えられる物品を指す。英語の「OOPARTS」からきた語で「out-of-place artifacts」つまり「場違いな工芸品」という意味。

エレベーターらしき空洞があるとなると、まさにそれだ。リヒャルトはインディに案内され、その空洞の入り口まで行った。中は真っ暗だが、何かを吊り下げるためのフックのような器具が天井に打ちつけられているのが灯りで照らしてみると見えた。
「音波探知機を使って底部までの長さを測ったら、500メートルぐらいあると分かった」とインディ。
大きさは、5メートル四方ぐらいあり、エレベーターの入り口だとすると高さも、そのくらいあり、現代の掘削工事の作業用エレベーターに匹敵する。エレベーターをどうやって引き揚げたり下ろしていたのか、それも500メートルという長さを。人力では到底無理だ。電気を使っていたとなると、かなり発達した文明であるといえる。電気は元より地下エレベーターの建設をするための地質調査ができるだけの技術を持ち合わせていたことになる。
だが、我々が下を降りるには隣りで見つかった階段を使うことになった。人が2、3人が横に並んで降りられるほどの大きさだ。階段の段差は、現代の我々でも普通に降りられるほどの高さだから、この階段をつくり使った人は我々と同じぐらいの体格だったと推定される。
電灯はなく真っ暗だが、電灯を備えていたような規則正しい穴ぼこが見受けられる。
作品名:遠い遠い記憶 作家名:かいかた・まさし