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弟は天才児!?

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IQ147と言われて、まず幼稚園の先生と両親がびっくりした。
「うちの家系にそんな天才はいない、何かの間違いじゃないのか」
そう父親が抗議して福人だけテストの受け直しをさせられたが、
たいして数字は変わらなかった。
幼稚園の先生は「幼児のIQテストは発達具合を見るためのものであって
いわゆるIQとは違うんですよ」と焦った様子で両親を宥めていた。
一方、106という平凡な数字をはじき出して、それが何の事かは分からないものの
弟より劣っていることははっきり分かった私は
なんだかとてもショックだったことを覚えている。
父方の祖母は慌てる両親と周囲を前に、私の頭を撫でながら、
「普通がいちばん、普通がいちばん……」
そう宥めてくれた。
福人は、と思ってちらりと見ると、
とてもしっかりした、幼稚園生とは思えない顔立ちで
大人達を眺めていた。

その時初めて、『弟のことが分からない』という悲しみを知った。
産まれてからずっと一緒だったのに。

周囲の大人達は現金なものだった。
塾のDMはわんさと来たし
「某大物SF作家の再来か!?」
どこから漏れたのか、そう書きたてる雑誌もあったし
しばらくはテレビ局がカメラを持ってうろちょろした。
当時田舎に住んでいて、そこでは子供が野放しだったから
当然私たちも野放しだったのだけれど
マスコミは子供にも容赦なくて
しつこいテレビ局に「必要以上に外に出るな」と言われて
仲の良かったリエちゃんやサキちゃんと遊べないことに
腹を立て、弟を叩いたこともある。
弟は泣かずに、じっと我慢していた。
「どうして泣かないの?」と聞いたら
「僕は悪くないから」と答えた。
謎かけみたいな言葉の意味が分からずに私は困惑して立ちつくした。
「福人、変だよ。どうしちゃったの」
姉という立場を思いだし、本気で心配になってきた。
「僕はどうもしてないよ。大人がおかしいんだよ」
福人の言葉に、私は大きく頷いた。
「そうだね、大人がおかしい」
「じゃあ叩くなよ」
「ごめん」
そう言って、ぎゅうと抱きしめた。私たちはしばらくそうしていた。


私たちの小学校入学が決まった。地元の公立小学校。
偏差値なんてない、自由な校風が気に入ったと、母は言っていた。
「い〜い、成績は普通で良いから、友達をたくさん作るのよ」

格好良いぴかぴかのランドセル
賢くなれそうな学習机
そして何より、新しく出来るであろう友達!
私たちははしゃいでいた。だが、両親は大変だったらしい。
まず、校長が余所の私立小学校への編入を勧めたこと。
担任がなかなか決まらなかったりと、いろいろあったらしい。
続いて保護者から出てくる不安。
出た数字が凄いからといって、持ち上げたり必要以上にもてはやしたり
周囲の大人は本当に変。
私は子供らしい無邪気さで、そう思っていた。
そう、いつまで思い続けていられただろうか。

結局、私と福人は同じクラスに入れられた。
理由は分からないし知らない。大人の事情だろう。
小学校入学時から福人は頭角を現した。
まず、テストが終わるのが早い。
私も頑張って真似したが、あれは越えられそうもない。
学級委員長には文句なしに選ばれたし
記憶力も先生の信頼もダントツだった。
それでも頑張っていたら、私たちのテストは100点が並ぶようになった。
「美幸ちゃんも天才なのかも知れないよ」
友人にはそうおだてられたけど、側にいた福人の友達は言った。
「美幸は普通だよ」
私はそれが当たりだと、心の底から納得していた。

あの頃の価値観って
どうしてそうだったんだろうと思うほど
大きいは小さいより偉い
強いは弱いより偉い
賢いは馬鹿より偉い
大人になっても多少はその傾向はあるけれど
……酷く、単純だと思う。
普通だねって、今でも微妙に貶し言葉な気がするけれど
それは私の劣等感から来るものなのかも知れないけれど
美幸は『福人と違って』天才じゃないねという言葉は
当時の私の根本を揺さぶった。

福人の友人は長島君といった。
いつもおちゃらけてる子で、牛乳を鼻から出してみたり、スカートめくりの
主犯だったり、お馬鹿なことをしている子だった。
けれど私は知っている。彼が人一倍聡明なことを。
福人と遊ぶとき、私にはとてもついていけない
高度な言葉を使っていることを。
「どうしてみんなの前で福人の前みたいに振る舞わないの?」
そう聞いてみたことがある。長島君は言った。
「お前、みんなには言うなよ。言ったら虐めてやるからな」
きつい敵意の籠もった目線を向けられて、私は怯えて頷いた。
ちなみに、長島君はあんまり良くない気がすると福人に言ったら
「僕の交友関係に口を出すな」と言われた。
福人が本気で怒ったのを初めてみたので
私はただただびっくりして
それでも自分がいけないことを口にしたのだと感じ取り
「ごめん」と謝った。
激しい声に母が飛んできたのだけれど
「何でもない」と言い張って。
その数日後、長島君と遊んでいたことをどう思う、と言われたから
良いんじゃないと言うと
福人は嬉しそうに頷いた。
あまりに嬉しそうだったので、嫉妬したくらい。

「僕は目立ちたくないんだ」
福人はある日そう言った。私が、何でみんなの前で発言しないのと
言ったときだ。
福人ならすらすら答えられそうなのに。
福人は小3になると、もう大人みたいな醒めた目をしていて
そんなことを言った。
今なら、福人の言い分も分かる。彼にもいろいろあったのだろうと。
けれど、当時の私には本当に、よく分からなかったのだ。
子供は残酷だ。そして、凄い物を凄いと口にする。
けれど……福人には既に分かっていたんだろう。その危うさが。

私は幼い頃、福人のことが大好きだった。
だけど小学生になってどんどん嫌いになっていった気がする。
福人は悪くない。悪くないのに。

原因は分かっている。
……私たちは違いすぎたのだ。

作品名:弟は天才児!? 作家名:まい子