小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

一夜の逢瀬

INDEX|1ページ/1ページ|

 
あなたの姿から、さやけき月の光という言葉が浮かんできます。

夜のしじまに差す一筋の冴え冴えとした月の光です。華麗な美しさではなく、ひっそりと青白く、どこまでもやさしい月の光。

あなたのイメージは、そんなさやけき月明かりの下にたたずむたおやかな姫です。あなたのことを「さやけき月の姫」とお呼びしましょう。

料亭で、座卓をはさんで正面に座ったあなたのイメージは、「さやけき月の姫」にふさわしく、長い黒髪と美しい青白い頬をした平安朝の姫君のイメージです。

どんなに照明が月明かりから程遠いものであっても、あなたの装いがどんなに近代的なものであっても、あなたのイメージはそんな古風な姫君の姿として私の脳裡に何度も蘇ってきます。

私の想いは、届かぬ月に対する想いのように、はかなく、しかし強いものです。

憧憬の対象としては、あまりにも遠く、欲望の対象にするには、あまりにも美しい、そんな姫に私は恋をしました。

まぼろしと呼ぶにはあまりにも現実的で、うつしみというには、あまりにも鮮明に、その女性は、緑の黒髪に、白く、か弱く、細く、美しい姿態をして私の前に座ったのです。

過ぎ去ってみれば、その邂逅は、まるで一夜だけの逢瀬の後のよう。はかなく、たよりなく、漠とした印象しか残しません。

しかし、その白い人の印象だけは、周りから抜け出て、脳裡に鮮明に焼き付けられているのです。

「さやけき月の姫」にもう一度会いたいと思います。あの夢のような、淡い邂逅に憧れ続けています。
作品名:一夜の逢瀬 作家名:筆 達夫