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最後の言葉

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母が亡くなったのは暑い夏だった。
日差しがじりじりと差し込んで私の肌を焼いた。
もうすでに食べ物をほとんど受け付けなくなった母が
アイスだけを欲しがって、それもしゃりしゃり系の氷アイスで
溶けやしないかと気がかりだったことを覚えている。

母が癌を宣告されたのは6年も前のことだった。
下痢も便秘もしたことのない母が下痢で医者にかかって一ヶ月目
薬で治らないのはおかしいと町医者が大病院を勧めてくれた
内視鏡のプロが見てくれるのに三ヶ月もかかり
その結果は黒、大腸癌。

まだ五三歳の母はパソコンに熱中する私の背後に来て言った。
「お母さん、大腸癌かも知れない」
私は「へー、そうなんだ」と流した
命の大切さ、母親が死ぬかも知れないという大変さ
それを何も感じなかった遠い冬
悔やんでも悔やみきれない自分の残酷さ

母の病室には花が飾ってあった
ボランティアの人が飾るらしい、病室の白い花
「ありがたいことだね」と姉が言ったら
母はどうでもよさげに頷いた。

そういえば姉はいつも私と一緒に来たがっていた、ホスピスに
当時はなんてうざったいんだろうと思ったが
今思えば弱った母という現実をひとりで見たくなかったのかも知れない。

「お母さんに、何かしゃべりたいことがあったら、今のうちに話してください」
そう病院のスタッフに言われて、一言だけ口に出した。
「お母さん、今までいろいろとごめんね」
母は言った。
「何を言うの。私、まい子のことで怒ってることなんて何も無いよ。
誰かに責められたの?」
母は最後まで私のことを心配していた。
親不孝者の私のことを。
それが悲しくて、私は泣きたい気持ちで笑った。
「ううん、誰にも怒られてないよ」
それでも母は信じないようだった。

危機もあった。
誰もが庇うだろうS病院の主要スタッフが
宗教観の違いにより母の前で私といざこざを起こした
一言で言えば、天国はあるかないか、だったのだが
私は天国を信じていないしあの世も信じていない
そんなことを言うと天国に入ってお母さんに会えないという宗教家のスタッフに対し
泣きそうになりながら反論しようとしたとき
母が目を覚ました。
「何でもない」と言い張る私に対し
疑心暗鬼の目を向ける母

母の前では絶対泣かないと決めていた。
結果それは守られたわけだけれど
低い体温になった母にすがりついて泣きじゃくりたい気持ちはあった。
「お母さん、死なないで」
それが母に言えなかった最後の言葉。

親不孝者の、最後の言葉。
作品名:最後の言葉 作家名:まい子