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アノンの父親捏造まとめ

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再会編


「ご覧、ロベルト。ここが新しい別荘だよ」
 よく晴れた秋空の下、山中の草原に建て替えられたばかりの人間界の別荘を指して、満足げにマーガレットが言った。
「新しい別荘って…前のと同じじゃない? 外観も、中も」
 ウッドデッキから別荘の中を覗きつつ呆れる息子。
「そうだよ、十団も皆泊まれたし、あれが一番だっただろう? どうだいロベルト」
(にしても全く同じなんて…そもそも十人も泊めることなんてもうないんだけどなぁ)
 父親を無視し、別荘から目を逸らしたロベルトは今度はがっくりとした。
「なんか…変な人がいるんだけど」
「え……」
 マーガレットも三つ編みを揺らしてロベルトの視線の先―――森の方を見やった。もっさりとした髪の男が、木々の間からこちらを見詰めている。
「………ストーカー、かな?」
「え、父さんまさか…心当たりが?!」
「ぁあ!」
 父親が急に大声を上げたので、ロベルトは吃驚してよろめいた。
「な、なんだよ…」
「まさか、あのときの地獄人?!」
「え…・・」
 ロベルトが体勢を立て直すと同時に、草を踏む音が聞こえ始めた。
「地獄人って、まさか…」
 彼が父親から音のするほうへと視線を移す間に、足音はどんどん近付いてきて、
「うわー!!」
親子は同時に悲鳴を上げた。
「ああどうも、お久しぶりです」
 嘘くさい笑い方で、あの地獄人が目の前で立ち止まったのだ。
(足速いな…!)
 これぞ、地獄人の超身体能力。
「お前、どうしてここにいるんだ。もう天界人には干渉しないと言っていただろう」
 マーガレットはいつになく真剣な表情になって、詰問するように言った。青紫の髪に紅い眼、褐色の肌を隈取した地獄人の方は、何度か喰った十ツ星天界人にひたすら笑いかける。
「ええ、確かにそう言いました。ただ少し気が変わったんですよ」
「君は12年前にもそう言ったね。そして僕を喰った」
「フフッ、よく覚えていますねぇ」
 神器を出してまで追い払うつもりはないが、マーガレットの腕は自然と構える形になっていた。
「そんなに警戒しないで下さいよ。私はあなたに危害を加える気はもうありませんから」
「……」
「ああ…もちろん、息子さんにも」
「…そうか」
 そこまで言われて、ようやくマーガレットは息を吐いた。そのとき、
「ですから、私 は ―――…」
地獄人が、突然ふらりとした。
「…え、おい!?」
 マーガレットがその身体を慌てて支える。
「おい、どうしたんだ!」
「は……」
 男は声を搾り出すように答えた。
「…腹が減った……」

 ちょうど正午を過ぎた頃だったので、マーガレットは新築のキッチンに立ち、持ってきていた材料で昼食の支度を始めた。外で倒れかけた地獄人の男は、今は食卓でぐったりとしている。
「ロベルト、お昼ができたよ」
 数十分後、マーガレットが外で森のほうを見詰める息子に声をかけた。
「うん…」
 彼は不審そうに、というより嫌そうに、眉根を寄せていた。
 2人が食卓につくと、ぐったりしていた地獄人が顔を上げた。マーガレットは硬い表情になったが、彼のぶんの食事を差し出す。
「君も食べなさい」
「…これは?」
「『肉じゃが』だよ。いただきます」
 ロベルトが簡潔に答えた。地獄人は肉じゃがをたいそう物珍しそうに見ながら箸を取る。
「それにしても、いつの間に肉じゃがなんて覚えたの?」
 糸こんにゃくを口に運びながら、ロベルトが父に問う。
「日本に来てからだから、最近だよ。マルコに教わって」
「マルコに? イタリアン以外も作るんだ」
「ああ、彼は何でも作るよ。やたらとトマトを入れたがるけどね」
 久しぶりの親子の会話で、マーガレットはつい顔を緩ませる。
「ふむ…初めて食べますが、美味しいですねぇ」
 そう言ったのは地獄人だった。空きっ腹におふくろの味は、さぞ有り難かっただろう。
 マーガレットが再び硬い表情になって、言う。
「それはどうも。ところで君は―――君の名前は? 前の神様と闘った時さえ名乗らなかったらしいじゃないか」
  ぼとっ
 地獄人の箸からじゃがいもが落ちた。よほど動揺したようだ。
「それ、僕も気になるな」
 ロベルトが追い討ちをかけるように身を乗り出した。あの日人間界に墜とされたことなど微塵も覚えていないのだ、とマーガレットは思う。
 地獄人が口を開いた。
「私は……ヴィノンといいます」
 ふむ、とマーガレットは頷きながら、警戒を解くことはしなかった。彼が本名を名乗ったとは思えない。そんなことを考えていたとき、外から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「びっくりしたー! まさか父さんが本名まで教えちゃうとは思わなかったよー」
「うわやっぱり居たー!!」
 声を聞くなりロベルトが叫んだ。まるで古代の巨大昆虫でも見たかのような嫌悪感たっぷりの顔で。
 そしてすぐさま席を立って奥に逃げ込もうとしたが、
「ロ・ベ・ル・ト・くーん!」
笑い声の主はウッドデッキとダイニングを繋ぐガラス戸からすたすたと中に入り、あっという間に背後に迫ってロベルトのパーカーのフードを引っ掴んだ。
「うぐっ」
「人の顔を見るなり逃げようとするなんて、失礼なんじゃないかなぁ?」
 ど派手なショッキングピンクの髪の少年を、ロベルトは青い顔で振り向く。
「喰われるのはもうたくさんなんだよアノン…あと、苦しいから放せ」
 新築のダイニングで、マーガレットだけが何が何だか分からず目を瞬かせていた。とりあえず斜め向かいに座る地獄人に訊いてみようと顔を向けると、
「…え?」
「こら、アノン!」
 彼は今までに見たことのない俊敏さで立ち上がり、少年が逃げるより早くそのもっさりとした髪を掴んだ。
「あ、父さん」
 少年がヴィノンを見上げ、無邪気に笑う。
「余計なことは言うなよ」
「分かってるよ、父さん」
 にっこり微笑んで、男の力が緩んだ途端彼はすっと距離を置いた。
「え…まさか、お前の息子か? ロベルトを…喰った?」
 マーガレットまでが眉根を寄せて問うと、少年は少しも悪びれずに微笑った。
「そう。僕が彼、ヴィノンの息子で、神をも喰らったアノンだよ」
「…お前……」
 アノンの言葉を聞いたマーガレットは、厳しい表情のまま庇うようにロベルトの前に立つ。
「息子まで連れて…一体何をしに来た?」
「ずいぶん警戒されたものですねぇ。言ったでしょう? あなたたちに危害は加えないと」
「じゃあ何故」
 何が可笑しいのか、地獄人はニィと愉快そうに笑った。
「私はねぇマーガレット、君に会いに来たんだよ」
「……はぁ!?」
 マーガレットは開いた口が塞がらなかった。同じく、その後ろにいるロベルトも。
「僕もロベルトに会いたかったから付いて来たんだ。途中で父さんが迷っちゃって、一晩飲まず食わずで山中を彷徨ってたんだけどね」
「それから事情があって家に帰れないんですよ。ですからしばらく、ここに泊めてください」
 数秒の間があって、天界人の親子はキレた。
「ふざけんな!」
と。