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朝霧 玖美
朝霧 玖美
novelistID. 29631
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桜姫

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冬の終わりの雷で目を覚ます。

私は桜姫。この桜の守護精。

何百年もこのお城のお堀で見守っている。

もう殿様も北の方様もいらっしゃらないが、水辺にたたずみ腕を広げる。

寒い厳しい冬をじっと耐え、静かに眠っている。

空気の中にほんわり暖かい気配を感じたら、一斉に身体が目覚める。

さぁ、春の始まりじゃ。

皆のもの、用意はいいか?

春の気配を身体いっぱいに感じ取って、蕾を作るのだ。

先発隊は冬将軍が戻ってきてもいいように心して咲け!

先触れを告げるのだから、寒気に負けて散ったとしても誇りある名誉の死だ。


「姫様、用意が調いました」


それでは、この暖気に乗って花咲かすのだ!

1年に一度の桜の狂演の始まりじゃ!




お堀の桜は満開で、その淡い色は青空に映え心和ます。

散り始め、お堀が花びらでいっぱいになり、手こぎボートの軌跡が出来る。

その花びらは桜姫の涙。

春を惜しむ心と今年も精一杯花咲かせ皆を喜ばせた証。


これからは、若葉で萌える緑、夏は濃い緑葉、秋は赤や黄色の色彩で

まだまだ人々を癒やし喜ばせるのだ。



「姫様、しばしのお休みを」

そう声がかかるまでの間、姫も忙しいよのう。
作品名:桜姫 作家名:朝霧 玖美