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気になるあいつ。

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常に動向が気になる相手というものがいる。
ライバル?
いや、単にその言葉だけでは言い表せない存在。
言ってみれば、人生という名のマラソンのペースメーカーの様なもの。

私にとって、それがNという男と、Aという女。

N。
入試で、偶然、隣の席に座ったのが始まり。
一浪して、同じ大学に入り、部室が隣り合わせの軽音サークルに入部。
担当楽器がドラム、という事も一緒。
コンサートなどで、出演が前後する事もあり、楽器を貸し合ったりした間柄。
打ち上げなどで一緒に飲む事も多かったが、特に、親友、というまでにはなっていない程度の付き合い。
だが、偶然にも、就職で選んだ業種が、大手建設会社。
私がK社、NはT社。
最初の配属先が仙台、というのも一緒。

A。
営業マンとして、交際費が使える様になって知り合った、銀座のホステス。
私より、丁度、一回り年下。
出会った頃は、小さな店のヘルプに入店したての18歳。
同じ福岡出身、という親近感から、食事に誘ったのが最初。

あれから、どの位の月日が流れたのだろうか。

N。
同じ業種、同じ営業という職種、しかも、同じ大手企業の担当、という事もあり、折に触れ、消息が伝わって来る。
結婚したのも同じ時期。
肩書が付与されたのも同じ頃。
部長職になり、新聞人事欄に名前が載る様になったのも変わらないタイミング。
それまでの間、同窓会や、パーティ、銀座等で顔を合わせ、グラスを合わせる事も少なくなかったが、相変わらず、親友、と言う関係にはなっていない程度。

A。
小さなクラブから、中規模人気店にスカウトされ、更に、老舗クラブでナンバーワンに上り詰め、三十路前にはチ―ママの地位を確保。
私とは、不定期的に、九州郷土料理と焼酎で、故郷の話に花を咲かせ、ごく稀に、ベッドを共にする程度の付き合い。
愛人未満の恋人、という感じだろうか?

そして、Nと出会ってから、38年を迎えた今年。

私は、地元・福岡の執行役員・副支社長という、サラリーマンとして最後になるであろうポストに就いた。

ところが、偶然というものは恐ろしいもの。
同じ時期に、NもT社の福岡支社に異動して来た。
肩書は、常務執行役員・支店長。

遂に、二人の間に明快な差がついてしまった。
「副」が付くか付かないか、組織の上では雲泥の差だ。

更に、A。
銀座で成功を収めた彼女は、実家の親の面倒をみるため、福岡・中洲にオーナーママとしてクラブを開業。

これまで、直接的に交わる事のなかった、私、N、Aの人生が、初めて交差する事になった。

Aの店の開店日。
私は、祝いの花束を抱き、遅い時間に立ち寄った。
満面の笑みで出迎えるA。
ひとしきり、開店祝いや最近の消息を話した後、Aが、私に、Nとの関係を尋ねて来た。
「知ってるのか?」と私。
「ええ。早い時間、K電の副社長に紹介されたの。アナタの事、聞いてたわ」とA。
「何を?」
「アイツがいたから、今の自分があるって。Nさん、学生時代から、アイツにだけは、後れを取りたくないと思って頑張って来たみたい。」
「!!!そう言ってた?」
「俺にとって、アイツは人生のペースメーカーだ、ってね。でも‐‐‐」
「でも?」
「‐‐‐俺には、君の様な、素敵な女性と巡り合う事は出来なかった。出世では、少々、先に立てたかもしれないが、こっちの方は完敗だ、って。‐‐‐(小声で)もう、役に立たなくなってる、って嘆いてたわ。」
「‐‐‐‐」
「ね、今夜、来て‐‐‐」

さて、私とNのレース。
勝者はどちらなのだろうか?
作品名:気になるあいつ。 作家名:RSNA