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三題噺「忘れ物」「再会」「雨」

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 恭子は電車に揺られながら、自分の天然具合に呆れていた。
 周りを見渡すと仲の良さそうな家族がちらほらと見受けられる。近頃はお盆の季節ということもあり、そんな家族一同の集まった光景というものは他の場所でもよくあった。
 実際、恭子もつい数時間ほど前までは家族や親戚と過ごしていたのだけれど、東京で一人暮らしをしているアパートに忘れ物をしてしまったがためにこうして一度戻る羽目になっていたのだ。
 久々の帰省で、ようやく再会したというのにまたこうして一人になると、ついつい東京に出てきたばかりの時のことを思い出してしまう。
 ほんの数ヶ月前のことだというのに、今とはだいぶ違うものだな。そんな風に恭子はかつての自分の余裕の無さを一人笑った。
 冷房の効いた電車を降り、ホームに降り立つと夏の日は燦々と照っていて一気にからからとした暑さを感じた。昼過ぎで一番熱い頃だというのもその一因だろう。
 そんな時、マナーモードのままにしていた携帯電話が震えた。ポケットから取り出し、表示を見てみると実家の番号だった。
「もしもし、どうしたの?」
「ああ……まだ戻ってこないのか?」
「すぐに戻るよ。……あれ? そっちは雨降ってるの?」
 電話先のかすれた声の奥からざあざあと雨の降る音がかすかに聞こえた。
「そうだよ。じゃあ――」
 乱暴に受話器を置いたのだろうか。少し大きな雑音を伴い、通話が終わった。
 恭子はいつもよりもぶっきらぼうな……父だか叔父だか分からなかったけど、そのかすれた声を聞き、ついでにのど飴でも買っていこうかな。と考えながら住み慣れたアパートへと向かった。

 帰る頃には少しばかり日は傾き始めていた。今度は忘れずに持ってきたネクタイ。この夏のボーナスで買った父へのプレゼントである。
 車窓から眺める景色はだんだんと都会から田舎へと移り変わっていく。
 恭子は乗客が自分に以外いないことを確認すると窓を少し開いた。
 草木の匂いが混ざった乾いた空気が一気に車内に流れ込んでくる。
 こんな空気は久しぶりだった。
 排気ガスの匂いが満ちた東京とは違う、どこか懐かしい香りに目を細めた。
 人の気配の感じられないホームに降りると、日はすっかり傾き夕焼け色に辺りは染まっていた。
 舗装のされていない田舎道を歩いていく。砂利のこすれる音がまた懐かしい気分にさせてくれた。
 そうして二十分ほど歩くと、家の辺りが騒がしくなっていた。近づいてみると警官が実家の周りを囲むように立っているではないか。
 恭子は焦る内心を抑えながら、近くにいた警官へと話しかけた。
「何があったんですか……」


「被告人は当時高崎家にいた一家、及び親族の五名を所持していた両刃ナイフで殺害。殺害後は浴室に死体を運び、シャワーを使い自身に付着した返り血、汚物を流し――」
 検察官の声を間近で聞きながら、高崎恭子は一人俯いていた。あの日、雨なんてものは降っていなかったのであった。