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フレンドボーイ42
フレンドボーイ42
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Electronicafe

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I'd like to stay here for ever.

 カフェに合う曲を作ってほしいといわれた。それも『昼』カフェ曲でなく『夜』カフェ曲だと。ならばエレクトロニカだろう。好きな人もそうでない人も、夜にはいい曲だ、と思うだろう。そこでコーヒー(トロピカルジュース)なんかを飲みつつ・リラックスしようと、言うわけか。まあ一般の人はバーに行けばいいのに、と思うだろうが、今どきの若者はおっさんくさい『バー』は嫌なんだろう。あんなにもったいぶって酒飲むより、コーヒー飲みたいという気持ちは自分も十分理解できるから。カフェに俺も今いる。いい環境じゃないか。やっぱりエレクトロニカはいいな。静かに何も考えずに、ただここにいながら、お互いの静寂を守っている。干渉しない。話もしない。お互いに落ち着いた態度を取る。皆眠らない。夜は外がうるさい。都会の喧騒とか、夜ならではの妙な音とか。昼とは違った何か違う音が聞こえるようになったら夜行性の仲間入りだ。夜は何も叫ばずともとある音がずっとなり続けている。その音は、人間にとても心地よく、そして全てを飲み込んでいくような音。
 女性がいきなり歩きだして店員に何やら話すと、女性から店員が金銭を受け取り、客の全員にケーキのような菓子を配り歩く。みんなやっていて、ルールがわかっているからみんな口にする。その日誰がやる課は暗黙の了解のようになって決まっている。順番というものはないが、かぶらない。
 彼らは小説家として、ここにいる。小説家といっても、文章を書くのに、今はネット環境設備があれば書くことができるから、MKEditorとか、TerapadとかStory Editorをダウンロードして、それを使ってテキストファイルを書き、送ることで仕事になる。皆テーブル下のコンセントにプラグを常時差し込んでいる。こぼさないように飲み物は別のところにおいて飲む。これも、よく見る光景。
 一応この店の中にも泊まるところもあるらしいが、彼らがそこに行くのはまれで、大体はここにいる。一カ月に一度銀行に行って、金を持ってきて、しかしその金はここと近くの別の店でしか使わない。その店を開いているのはここのオーナーの知り合いで、カフェでなく普通の店だ。その二つの店しか行くことはない。ここにいると落ち着くからみんなここにいて、そしてそこそこ売れているようだ。俺も、まあ生活には困らない程度の金を持っていて、ここに寄生して生きている。オーナーは追い出すことはない。オーナーも兼業のライターだ。オーナーは自分以外にも友人が数人いて、かわりばんこに運営をしている。
 今日のケーキはうまいな。
 今日も目の前でプロットを考える。たぶん次はこうキャラ出しとけばいいだろう。書きながら、そろそろ朝かな、と思っている。朝になるとここの客も少しはしゃべりだす。昼はトークを楽しむ。そして、夜になるとまた静かになる。It's rolling except for no timing.夜になると仮眠室もあいているのではあるが、みんな2,3日くらいの頻度でしか行かない。服を変えるのもそれほどでなく、風呂はあるのだが、はいるのも人によって頻度が異なる。そんなものだ。そもそも夜に外に出ていくやつもいるのだから。出て行って、本をどこからか調達してきて、そして呼んでいる。どうやっているのか分からないが、彼はその本を読み終えると、このカフェの本棚に入れておく。それを読んだりして、一夜を過ごす。
 あれ?今日はあいついないんだ。まあ、そんなことはひんぱんにあるし、だれかがいつしかいなくなって、そして4,5日たつと戻ってきたりする。「やっぱり夜はここがいいな」といって。そうだろうな。外はやっぱり俺たちには冷たいよ。俺たちがそこそこ有名な作家だなんて知らないからやつら、馬鹿なことを言って、そして俺たちに蔑視を向けたり。まあ、ネタが増えるからいいんだけど。
 あれ、店員がまた来た。今日はほかのやつも注文でもしたのか?
 「すいませんが、水上様」
 「どうしたんだ」
 「夢下様が、いなくなりまして」
 「いつものことじゃないか」
 「それがこんな一文を残して行かれたものですから」
 「どんな」
 この静かな店内でトークをしてたら他のやつもこちらを向く。それを意に介せずに俺は文章を読む。
 「皆さんお世話になりました。今宵は死ぬのに一番いい日ですね」
 俺はその文章を読むと、店員に向かっていった。
 「しかたねえよ。しかたねえだろ。あいつがそう思うのならば。止めてやったらかえって迷惑だろうよ」
 その文章を読んだ他の客も言う。 
 「仕方ありませんよ」
 「仕方ないな」
 「いいんじゃないか?」
 「あいつにはお世話になったし、せめて冥福でも祈ってやるか」
 そういって静かに持ち場に戻る。
 店員はその様子を見ると再びレジに戻る。
 俺のもとに最初に来たのは、今は俺がこの中で一番年上だからだ。俺が一番相談される回数も多い。まあ、それで適当なことを言えるはずもなく、大体は聞いてあげるだけのお仕事だ、もっと言うと、聞いてあげて、相手が自発的に答えを見つけるのを待つ。別にかまわない。俺に話せば答えが思いつくなら。別に見返りも求めることはないし、自分としてもそれでいい。
 朝が来た。
 「水上さん」
 「どうした黄緑」
 「夢下さんの冥福を祈って、今宵だけはお酒でも飲みませんか」
 「そうだな…他のやつはどうなんだ」
 「いいんじゃないですか?でもここ一応カフェですからワインなんておいてないと思いますけれど」
 「ワインぐらい買えるよ。高いものでなかったらな」
 「そうですね。野暮なこと言ってすいません」
 そうして今宵だけは飲むことにした。
 ここのカフェのやつらの平均寿命は、30歳前後。自然にメッセージを書いて、ぽっくり、逝ってしまう。最初は止めようとか、そういう声もあったが、今はそういうことは別にいいと思っている。大体こうなると、新人も来るはずだ。一人死ぬと一人来る。そういう店だ。そして差そあれたら後は似た一生の終え方をする。そしてそのたびに、なんかしようか、となる。Now there comes another one.
 カフェのオーナーに、知り合いを呼ばせて、肉料理を作らせる。ニュースを見れば、やっぱり住所不定作家の夢下は死んでいた。夜、黙ってみんな酒を飲みながらステーキを食い、そして、食い終わったやつから自責に戻る。誰も彼の印象とか人物像も語らない。彼がどういう人だったかは語らない。彼の思い出を語る奴もいない。戻ってただパソコンの前に座り、また、好きな飲み物を飲んで文章を書く。そうして、一日がまた終わり、また普通のサイクルに戻っていく。俺は少し外に出たくなって外に出てみる。
作品名:Electronicafe 作家名:フレンドボーイ42