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欠伸

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夜明け前の散歩に出たら、家から三軒隣の空き地の隅で女が子供を殺していた。

女は名前を何と言ったか忘れたけれど、この近くに住んでいて、私は二、三度この女と顔を合わせたことがあると思った。女は子供の首をくいと捻って手際よく息の根を止めてしまうと、そこらへ散らばっていた落ち葉を集めて子供の上へかぶせた。そうして懐から出した濡れ手拭で指を一本一本拭いながら、空き地を出て、そのまま路地の向こうへ消えていった。

空き地へ入って女のかぶせた落ち葉をどけると、まだ足の立つか立たないかの女の子であった。こんな所へ捨て置いていては駄目だと思って見ていたら、辺りが白々と明けてきて、案の定遠くの空へごまをまぶしたように無数の烏が出てきた。烏たちは見る間に近づいてきて空き地に降り立つと、女の子の周りに群がってたちまちの内に髪の毛一本残さず平らげた。

空き地を出て商店街へ向かう途中でも、ほうぼうの家で親が子を殺していた。ある親は門柱に子の頭を叩きつけ、またある親は子に重りをつけて庭の池に放り込んだ。そうして子が死ぬと、親はそれをビニール袋に詰めてゴミの集積場へ運んだり、そのままそこへ放置して飼い犬や鯉の餌にした。

商店街へ着くと、いち早く起き出した肉屋の主人が、店先に大きなまな板を出して入荷した子供を捌いていた。真空パックに一つ一つ丁寧に梱包された子供の体を取り出しては、首を落として皮を削ぎ、てきぱきと三枚におろした。その手際に見とれているうちに夜はすっかり明けて、太陽が商店街を斜めに照らし出した。

私は起き出す店々の間を縫って歩いた。子供を物干し竿に並べて干している店もあれば、砕いた子供の粉を少量ずつ秤で量っては袋に入れ、口を結んでせっせと棚に並べている店もあった。私はあっちの店を冷やかし、こっちの店を見物しながら商店街を抜けていった。

商店街を抜けてしばらく行くと行く手に小高い丘が見えた。その丘へ登り、腰を下ろして今抜けてきた街を眺めるうちに、頭の上を雲が走って雨が降り出した。雨はたちまち土砂降りになり、ほうぼうで川が生まれ、街へ流れ込んだ。川は道を埋め、塀を埋め、建物を埋めてたちまち街を飲み込んだ。殺された子供もそうでない子供も、また殺した大人もそうでない大人も、皆平等に死体になって、街を飲み込んだ川の水面へ並んで浮いた。それからしばらくして雨が止み、陽が差して川が干上がると、死んでいた子供や大人たちはまた皆生き返って、街の中を動き出した。大人も子供も、壊れた街に道を造り、塀を造り、家を造った。

それを見ながら、私は丘の上で欠伸をした。長く大きな欠伸であった。その口に冷たい風が飛び込んで、何かと思って見てみたら、陽がもうだいぶ傾いて、遠くの山に沈みかけていたから、私は立ち上がり、家へ帰って寝るために、街へと降りていった。
作品名:欠伸 作家名:水無瀬