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打算的になりきれなかった一週間

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第二章 打算の理由



「全くもう、心臓が止まるかと思ったよ」
携帯の向こう側で唯がため息をつく。私はベッドの上でクッションを抱きしめながら
ごろんと寝ころんだ。
「ごめん。言ったら紹介してもらえないかと思ったの」
翔大に電話する前に唯にかけた。友達は大切だ。彼氏も大切なはずだけど、
彼とは一週間だけの仲だし。唯は最初怒ってるようすだったけれど、結局許してくれた。「で、これからどうするの? 付き合うっていったってキスとかするわけじゃ
ないんでしょ」
ぶっ。
「当たり前でしょ。なんで好きでもない男と」
唯は案外言うことが大胆だ。ホモ描いてるせいかもしれない。あ、BLか。
唯は真面目な声で言う。
「あのさ。中多君がどういう人か分からないのに、よくあんな提案したよね」
「どういう人って……婚約者がいるのに彼女を作ったような人でしょ」
「それ、実は違うの。中多君は被害者なんだよ」
私は唯から事の顛末を聞いた。何それ、と私は眉を顰める。
「全くのデタラメじゃない。翔大は反論しなかったの?」
「水掛け論になるだけだと思う……振られたって、中多君を恨んでる子もいたし。
中多君、普通の子だと思う。そんな非道なことをするようには見えないよ。
それなのにあんな提案して……酷いよ」
悪かった、そう言いそうになって私ははっとする。いけないいけない。
「翔大には悪いけど、私、なりふり構うつもりはないの」
唯は絶句した後、ぽつん、と言った。
「……そんなにショックだったの?」
両親の離婚が。
「……」
「……そうだよね、ごめん。でもさ、そういう変わり方は、裕美自身を
傷つけるだけだと思う。……今はダメでも、落ち着いたら、考えてみて」
「うん。……ありがとう。でも私、傷つくつもりはないから」
強い女になるんだ。これから、母と二人で生きていかなければならないのだから。
唯はもう一度ため息をつくと、じゃ、切るね、そう言った。


「お母さん、パートに出ることにしたから」
階下に降りると母は家計簿を付けている所だった。私を振り返らずにそう言う。
家は父が慰謝料として残していった内1つだ。思い出が多すぎるので、
母は売り払ってマンションを買うつもりらしい。私もそれに賛成だ。
「雇ってくれるところ、あったんだ。どこ?」
正直な感想だった。父と職場結婚し寿退社してから、20年近く専業主婦を
やってきた母に、この不況下、仕事があるとは思わなかったから。
「駅の角のコンビニ。週3日入って欲しいって」
「おめでとう」
それ以上言葉が出てこない。腫れ物に触るとはこのことだ。父の浮気以来、
母は専業主婦から腫れ物になってしまった。
ようやっとこちらを見る。目元に刻まれた皺が心なしか深く見える。
すがるようなまなざしが胸に痛い。昔はこんな目をする人じゃなかった。
「裕美に家事を手伝ってもらうことになるけど、お願いね」
「分かってるって。なんなら、家事分担表作ろうか」
「助かるわ」
やっと笑ってくれる。居間の空気がゆるんだ気がした。ああそうだ、と
母はついでのように言う。
「分かってると思うけれど、勉強はしてね。将来一人でも自立出来るように」
「……うん、分かってるよ」
まるで結婚は不幸の元だというかのような母の励まし。けれど私は何も言わない。
私は良い会社に入って、仕事の出来る、誰もが羨むいい男と結婚するのだ。
もちろん寿退社なんかしない。仕事もする。そして知略と打算を働かせ、
決して浮気なんかさせない。させるもんか。
父みたいに、一度は愛した人を裏切る人など私は選ばない。
母みたいに、のんぼりと浮気されて悲劇のヒロインになんてならない。
私は------打算的な女になるのだ。


「俺はお前の考えは面白いと思う」
携帯から聞こえてくる翔大の声に、私は微笑んだ。
「ありがとう」
ふたたび、二階。翔大から電話はかかってきた。幸先が良い。
「でも打算的って具体的にどういう女のことを指すんだ?」
「決まってるじゃない。自分の利益のために人を利用して良心の呵責も感じない、
非道な女の事よ」
ほう、と翔大は息をつく。
「そんなもんになりたいのか。変わってんな」
「何とでも言って。白馬の王子様を待つ女から、投網持って追いかけ回す女に
変わりたいだけのことよ」
「女は怖いな」
「知らなかったの?」
「……知ってた」
声が真に迫っていて、私は吹き出す。
「もてる男は辛いわね。抜け駆け禁止同盟が結ばれてたらしいじゃない」
「最近は平和だったんだけどな。なんか悲劇のヒロイン気取りのが2,3人来たけど」
「悲劇のヒロイン気取り?」
甲高い声が携帯から漏れる。
「婚約者がいるんですってね……私、身を引きます……っう奴。身を引くも何も、
俺、その子と付き合った覚えないし」
「まあ、おかしな子はいるものよ」
とりあえず慰めてみる。翔大は確かに普通の男の子だった。とてもじゃないけど、
わざと酷いことをするようには見えない。唯の言った通りだ。
「ところで、付き合うって具体的に何するわけ」
そうね……。
「まずは、デートね。手始めにマックでおしゃべりなんて良いわね」
「漫研の活動にも付き合えよ」
うっ、そうだった。忘れてた。
「今忘れてただろ」
「気にしないで。じゃあこうしましょう。漫研で活動して、その後マック」
「OK。じゃあ、また明日。ひさ……」
何かを言いかけて、黙る。「裕美」
「うん。じゃあね、また明日」
通話を切る。うん、計画は上手く行っている。とりあえず翔大とは気が合いそうだ。
男心を一週間で知ることは難しいかも知れないけれど、まずはレクリエーション、だ。