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入水だろうか

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2.獄寺隼人




寮も人が少なかったが、中庭は更に閑散としていた。水が止められた噴水と、伸びはじめている植え込み、人の影は見当たらない。
むしろ夏休みなのに学校に人がいる方が不自然かもしれない。部活をしている雰囲気もないのは、変な感じがする。
中庭は明るく生き生きとしているが、綱吉の気は重い。部屋に入るなと追い出されたが、寮生活でどうすればいいのだろう。さすがに野宿する肝はない。
大人に相談するかと思うと、それも憂鬱だ。
建物の角を曲がると綱吉は思いきり何かにつまずいた。辺りなんてほとんど見てなかったのもある。顔面から地面にいった。
「いったぁ!」
「いてぇ!」
「え!?」
振り向くと髪の毛が肩までのロン毛で銀色の、煙草をくわえ、髑髏などの厳つい装飾品をじゃらじゃら音が鳴るほどつけた、どう贔屓目に見ても怖い男の子だった。目付きはさっきの部屋の少年の比でなくきつい。
綱吉がつまずいたのはこの少年の足で、蹴飛ばしたようになってしまった。
「あ、ああああの」
「てめぇ……」
「すみませんでしたー!!」
綱吉は小学校のころから絡まれやすい。基本的に苛められたりからかわれたりすることばかりたったし、犬にもよく追いかけられた。
絡まれるのが性分なら、逃げるのは習性だ。
銀髪の彼が何か言う前にと全速力で綱吉はそこから離れた。
後ろから呼ぶ声が聞こえたが、とにかくがむしゃらに走って逃げ切ると、綱吉はさっきの彼みたいに建物を背に座りこんだ。
「お金持ちって、なんかイメージ違うよ」
お坊ちゃんと呼ばれる類いの人に持っていたイメージはこの一時間で180度ひっくり返った。
「痛いし」
二度蹴られた脇腹も盛大に打ち付けた額と鼻も。満身創痍だ。
ぼんやり外とを隔てる柵を見ていると、馬鹿馬鹿しい気持ちになってくる。
しばらくすると、外から柵をよじ登ってくる生徒がいる。三人組の男。装飾の多い柵だからか器用に上って、乗り越えると飛び降りて着地する。
おおっ、と綱吉はそれを感心して見た。目から鱗だ。逃げられない場所じゃないんだから、綱吉もああやって出ればいい。距離はあるが歩いていればいつかは帰れる。陸さえ続いていれば。
それでもまだ問題はある。
顔をしかめて唸っていると、三人組が何を思ったのか綱吉の方に向かってきている。
「うん?」
やばい、と思った時には遅かった。腰をあげたまではよかったが、今度は逃げる前に囲まれてしまってまた地面にお尻をつけた。よく見れば一人がバットを背中にかついでいる。
「ちょっといい?」
「あの」
「君さ獄寺って知らない?」
「し、知りません」
嘘じゃない。転校してきたばかりで人には三人しかまだ会ってない。
「ほんとに?髪の毛こんくらいで」
そう言って彼は肩の辺りで両手を水平に振った。
「銀色なんだけど」
本日二度目の、氷が喉を下がる心地だった。三人しかいないのに、大当たりしてしまった。綱吉の顔は見事に真っ青になる。
「……………しりません」
蚊のなくような声だった。男達は今度は真面目な顔で綱吉に詰め寄る。
「君、そうビビんなよ」
「それは」
「だって知らねーんだよな?獄寺君なんて」
「でっ!でも……バットが」
真ん中の男が、仲間の持つバットを振り替えって悪どい顔をしてニヤつく。
今までの経験上、よくない前触れだ。
「君は獄寺君を知らない。俺たちはむしゃくしゃしてる。いーじゃんギブアンドテイクじゃん」
ついにバットに手がかかる。ギブアンドテイクなんてどこにもない。こんなの一方的で理不尽だ。
「じゃラストチャンスだ、獄寺って知ってる?」
綱吉は声がでなかった。なにか答えてしまえば、どうなるか分かって足ががくがくと震え出す。
あっちにいました、と言えばいい。もう場所を移動してるかもしれない。全然別の場所を教えてデマカセをいってもいい。でも本当に出会ってしまったら。相手はバットを持っているのに。
そのとき綱吉は場違いにも母を思い出した。父さんはどんな人かと聞いた幼い綱吉に、本気なのか冗談なのか彼女はこう答えたのだ。
世界一かっこいいヒーローよ。ツっ君はお父さんにそっくりね。
「し…ません」
頭に浮かべる自分の父親と名乗るその顔を殴り付けるように綱吉は叫んだ。
「知りません!」
「ハイ残念」
バットが空に振りかぶられたのを見て綱吉は覚悟して目をつむった。
痛みは来ず、変わりに重いものが落ちるような音と悲鳴が聞こえる。
「うわぁ!!」
目蓋の隙間から見ると、足が四人分ある。バットを持っていた男は尻餅をついていて、腹に靴のあとをつけている。落ちたバットを、綱吉を庇うように立っているもう一人が拾った。
綱吉が足を蹴っ飛ばした、獄寺という名前の生徒だ。
「俺もちょうどむしゃくしゃしてるけどよ、ギブアンドテイクなんだよな?」
目的の獄寺が現れたはずなのに、彼らは一様に戦意喪失していた。
「やべーよ、ほんとに出てきちゃったしどうすんだよ」
「知らねーよ」
「あっ置いてくなよ」
三人組はあっという間に蜘蛛の子を散らすように逃げて、柵を乗り越えて帰っていった。
「よえーなら喧嘩売るんじゃねーよ」
獄寺はバットを放り投げて、綱吉の隣に腰を下ろしてタバコに火をつけた。
恐らく獄寺は見た目通りそうとう腕っぷしがたつのだろう。一難去ってもまた一難。助けてもらったようだが、そもそも最初に彼の足を綱吉は蹴ったのだ。恐怖は消えなくて、綱吉は相変わらず膝をがくがくさせる。
獄寺は煙をふかしながら、気まずそうに呟いた。
「……なんで」
「は、はい」
「なんで知らないなんて言ったんですか」
明らかに不良の相手から敬語をつかわれて、綱吉はポカンとした。
「なんか、やばそーだったからです」
「やばそーなら教えて逃げればよかったじゃないすか」
「いや、そんなことできませんし」
獄寺は困った顔で綱吉を見た。こういう顔をしていれば同じクラスにでも居そうな、普通の子だ。
「名前、聞いていいですか」
「沢田綱吉です」
「沢田?沢田沢田……」
「ごめん、それ母さんの方の名字だから」
沢田という名前のお金持ちはきっとこの学校にいないのだろう。
「じゃあ、つ、綱吉さん」
照れながら名前を呼ぶ彼の姿はなんだか親しみが持てて、綱吉はようやく気分が回復した。父親が訪ねてきて以来ずっと憂鬱だったのが、久々に嬉しくなった。
「獄寺君、俺と友達になってくれる?」
「はい!もちろん!」
「じゃあ敬語はやめよう」
「いいえ、綱吉さんは俺の恩人ですから!」
「ええっ?でも友達なら庇うのは当然だし」
「これは俺なりのけじめです」
そういって結局獄寺は譲ってくれなかったが、細かいことは気にしないことにした。金持ちってのはよくわからない。
綱吉が自分が転校生で概ねの事情を話すと、獄寺は快く自分の部屋に来ればいいと言ってくれた。
「どこのどいつか知りませんが、そいつが綱吉さんの兄弟でしょう。この学校は嫡子と庶子が同室になることになってますから」
やっぱり、と綱吉はうんざりした。
顔を見ればあの二人が親子なのはわかる。
「大抵は庶子の方が嫡子のパシりになります。それが嫌なら下剋上っすね」
「うわぁ……それってできるの」
「実力と度胸ですかね」
作品名:入水だろうか 作家名:ぴえろ