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東西シリーズ

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鈴木嘉内の花の大学生活一日目


「(あー、お嬢とはぐれちゃったよー)」
 鈴木嘉内、十八歳、今年に高校を卒業したばかり。そんで、今まさに大学の入学式。ここで、この新たな学び舎で、俺はおやっさんから託されたお嬢を命を賭して守り、時には、そう、お嬢が合コン行くとかそういう時には全力で阻止し、代わりに自分が合コンに行く的な、そんな生活を送るのだ! ここ、セントラルで!

 説明しよう! ここら辺一帯は、正義の任侠集団・猪狩組と、国家の狗大家族・弥生家が、西と東に分かれておのれらの矜持のためにドンパチやってる地域なのだ! そして、鈴木嘉内が「お嬢」と呼ぶその人こそ、西の猪狩組の次期組長・猪狩朱世お嬢その人である!
更に! 彼女らが共に入学したこの大学がある所こそ! 西も東も勢力の及ばない、セントラルマリオの治る中央(セントラル)なのである!
彼女と、舎弟である彼がここに来た理由はただひとつ! まっさらな初雪のごとしこの中央を、西の傘下に置くことである!

ま、突っ立っててもしょうがないし。とりあえず座るか……。
「すいません、隣、いいですか」
聞いておいて、返事なんか要としない。俺はもうそこに一家を構えるつもりで、どっかり座り込んだ。だいたい、K列辺り。
「ああ、どうぞ」
やわらかな声で答えられたその時、俺は既に座って、『新入学生の皆様へ』のパンフレットを読んでいた。建物の門をくぐった時点でわかりきっていた事だけど、さすが大学。ここ、とてつもなく広いぜ。セレモニーを行うホールに来れば絶対会えると思っていたけど、この新入学生の数じゃ不可能に近い。他に方法もないので、セレモニーが終わったら、どこか混雑のなさそうなところで落ち合おう。超高速でメールを打つ。「これ終わったら、801教室で待ち合わせましょ 」よし、送信っと。その間およそ二十秒。ケータイあるなら電話すりゃいいだろって? うちのお嬢は偉いんだ、俺と違って、とっくにケータイの電源切ってるに決まってる! セレモニーだからな! それが猪狩組の次期組長だ!
 と、そこで初めて隣に座っていた女の子に目をやった。可愛らしい声してたけど、フツーに可愛いじゃないか。フツーに……。
「あっ」
ばさばさばさ。俺は膝に抱えていたパンフレット類を豪快に地面に滑り落としてしまった。色とりどりで目に痛いビラが広がる。
「あっ、大丈夫ですか」
女の子は、しゃがみ込んで落ちたものを拾い、はにかみ笑顔で俺に手渡してきた。しゃがみ込んだたせいで、座っていたときには色気のないスーツのスカートで隠れていた膝小僧が見えていた。
「ど、どうも」

「お嬢お嬢! 運命の出会いって信じます?!」
「あーはいはい嘉内うるせぇ」
「お嬢! そんな乱暴な言葉遣じゃ、初見の人に誤ったキャラ設定を植え付けかねません! お嬢はもっとこう、しっとりした口調だったはずです!」
「なら耳元ゼロセンチメートルで喚くのをやめ! てか、しっとりした口調ってなんだー!!」
俺の隣に座ったあの女の子こそが、行方知れずの兄の代わりに、全ての責任をしょって出た、現・セントラルマリオだというのは、また別の話。


作品名:東西シリーズ 作家名:塩出 快