小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

妖精の寂しさ

INDEX|1ページ/5ページ|

次のページ
 
   妖精の寂しさ

 動物達はみんな私に無関心だ。私が近付いて頭を撫でてみても風が吹いた程度にしか思われていない。彼らにとって私は敵でも味方でもなく捕食する側でもなくされる側でもなくただの風のようなもの。でも、彼らの中で彼らを眺めているのは嫌いじゃなかった。みんな無関心だけど、その分自由だった。生きる為だけの行動は美しくもあった。生まれて生きて死んで、生まれて生きて死んで、何度そのサイクルを見ただろう。ある時、私もそのサイクルに関わりたいと思うようになった。彼らに近付いて話しかけて触って。でもやはり風が吹いた程度の反応しか得られなかった。彼らにとって私は必要じゃなかった。私はその場を離れた。

 そして人に出会った。

 人は私を見付けて妖精と名付けた。でも、風のような存在なことに変わりはなかった。決して触れることは出来ない。中には必死になって私を捕まえようとするものも現れたけどその内みんな諦めた。風を捕まえるなんて無理だから。そしてだんだんと私のことが見えなくなっていった。捕まえられないものは存在しないって。ただある種の人を除いて。
 見えない人が増えていったとき、見える人と見えない人の差がわからなかった。純粋なら見えるとか、子供なら見えるとか、人は勝手に言ってるけどそうではない。大人でも、子供でも、男でも、女でも、善人でも、悪人でも、見える人には見える。共通点があるのか無いのか。
 どうやら人は自己中心的で都合良く出来ているみたい。私を捕まえられなかったとき、捕まえられない=存在しないになった。そして、存在しないもの=見えないになった。でも、私はいなくなった訳じゃない。いるけど見えない。じゃあ、信じていれば見える?そうでもないみたい。必要か不要か。いつの間にかそうなってた。私のせいもあるのかな?動物達に関心を持ってもらえず、何かに関わりたくて人に出会った。良いことばかりじゃなかったけど、人は私に関心を持ってくれた。私が必要に思ってる。同じ様な事を必要に思っている人には私が見えるんだ、きっと。

 時間と共に私の姿も変わったみたい。というより見える人で変わる様になった。きっとそれは見えない人が出来たせい。どんな姿でも良くなったんだと思う。だから見える人に丁度良い姿に見える。今ではすっかり人の姿になった。ただ、女性の姿ではあるけど年格好は変わるみたい。だいたい見える人と同じくらいの年格好に。以前小さな女の子に羽が生えていた格好をしていたのは何故だろう?都合が良かったのかな?私は他の妖精と呼ばれている仲間を見た事が無いけど小さなおじさんの格好をしてるものもいるみたい。人が言っていた。でも、それも人が決めた事なんだと思う。誰かが作った妖精像。それを信じ、必要とするからそう見える。私はたまたま人の形。この形が私にも必要だったから。

 人の形になってから私は人に紛れていることが多くなった。多くの人の中にいたけれど、その内どのくらいの人が私の事を見えているかはわからない。自分に気付いて欲しくて人の側に来て、人と関わりたくて人の形になった。でも、人の形で近付いたからといってすぐに人と関われる訳ではなかった。人の形に見えていても元々私は風のような存在。動物達には触れる事も出来なかったし、声も伝わらなかった。人も同じかもしれない。人の中に人の形の物があるだけ。それにきっと殆どの人に私は見えていない。見えている人がいても、私からは誰が私の事を見えているのかわからない。あまりにみんな私に無関心で、もう全ての人が私の事を見えなくなってしまったのではないかって思える。でも時々、本当に時々だけど正面から歩いてきた人が私を避けて通る事がある。その時私はほっとする。まだ見えている人はいる。そう思えた。私は見えているであろう人に声を掛けてみる。届かない。他の人で試してみる。やはり届かない。雑踏に掻き消されているのか、私の声は声になっていないのか。触れてみる。手が通り抜ける。他の人に触れてみる。私には少し感触があった。でもその人は振り向く事無く行ってしまった。やはり風に吹かれたくらいにしか感じて貰えないのだろうか。私は人に関わる事が出来ないのだろうか。でもじゃあなぜ私の事が見える人がいるのだろう。私は何の為に存在しているのだろう。

 何度動物や人が一生を繰り返しても私は一生を終える事は出来ない。理由は分からないけど私はいつの間にか存在していて今も存在し続けている。私は死に憧れる。彼らには終わりがあって、繋げていく使命があるから一所懸命に生きる。私はその行為をとても美しく魅力的に感じる。私には無いもの。私はただ昼と夜を永遠に繰り返す。その間に出来る事は彼らを見続ける事だけ。ずっとそうしてきた。そうする事しか出来なかった。私も美しい一生を送ってみたい。出来ないのならせめて関わって命を身近に感じてみたい。私は人に期待をした。動物達は私に無関心だったけど人は私に関心を持ってくれた。もしかしたら関われるのではないか、感じられるのではないか。そう思ったけどどうやら無理みたい。
 きっと私は傍観者なんだ。ここに住むもの達をただ見続けるだけ。

 私は人の多いところから少し離れた。

 土手を歩く。街の外れを流れているそれほど大きくない川。すれ違う人は少ない。犬を散歩させている人とすれ違う。犬は私をちらりと見たけど人の方は私に見向きもしなかった。見なかったのか見えなかったのか。もう気にするのをやめた。
 私は一人ぽつんと座る男の子を見付けた。彼はただじっと川を眺めていた。隣りに座る。何となく似たものを感じたから。
「独りぼっちだね。」
 話しかけるでも無く私は呟く。私はその自分の声に違和感を感じた。幼い少女の声。ああと思う。確かめる方法があったと。私の姿は見る人によって変わる。そして声も。でも聞こえないんだ、きっと。だとしても彼には私が見える。周りには他に誰もいない。一対一なら気付いてもらえるかも。
「うん。独りぼっちなんだ。」
 私は驚いて彼を見る。聞こえた?私の声が?泣きそうになる。初めての会話。私に初めて気付いてくれた人。初めて得た関係。
「引っ越してきたばかりで、友達がいないんだ。」
 彼は正面を見たまま言った。私は緊張しながら答える。本当に聞こえる?
「私も独りぼっちなんだ、ずっと。」
 しばらくの沈黙。やはり聞こえない?私は彼をじっと見つめていた。風が彼と私をそっと撫でた。私が動物達を撫でたように。するとまるでそれが合図だったみたいに彼は私に振り向いた。
「パパとママが『りこん』で、さよならしたんだ。そしたらおばあちゃん家に来る事になった。これからおばあちゃん家で住むんだって。」
 彼の目はしっかり私を見ていた。誰かと目を合わせる事がこんなにもうれしいなんて思っていなかった。私はもう何も言えなかった。彼を見つめる目から涙が溢れた。彼は驚いた顔をした。そしてふっと私の頭を撫でた。感触が伝わる。触れられている。今まで誰も触れる事が出来なかったのに。感動と混乱。
「大丈夫?どこか痛いの?大丈夫?」
作品名:妖精の寂しさ 作家名:もとはし