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その穴の奥、鏡の向こうに・穴編

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「なんか難しいこといろいろ考えてるみたいだけど、どうした?」
「いや、住居侵入罪がないなんてと思って」
 よくわからなかったのか、鷲尾は頬をぽりぽりとかいた。
「ま、こっちじゃ『住居』を持っている人の方が、珍しいくらいだしなぁ」
 まさかのホームレスだった。確かに家がなければ、住居侵入罪は成立しない。詳しく聞くと、ホームポイントが数か所あるというのが通常らしいが、別に家具だとかそういうものもないそうだ。
 しかし。俺は鷲尾を観察した。鞄の一つも持っていないし、身一つでふらふらと徘徊しているのだろうか?飯とかいろいろどうすんだろう。もしかして、果実が何処にでもあるとか?ぱっと空を見たが、真っ白い木には青色の葉っぱしか付いていなくて、何色かも想像できない木の実の姿は見つからなかった。
「あ」
 俺が変な行動をしている間に、鷲尾がこぼした。見てみると、ポケットをごそごそと漁っている。それから「ほれ」と俺に何かを差し出してきた。よく見てみると、それは何かの羽根だった。白地に茶色のグラデーションで、黒の模様がちょいちょい入っている。
「何これ」
「俺の羽根?」
 なぜ疑問形。当然俺も聞き返す。
「羽根?」
 鷲尾はグリフォンだと言っていたが、翼なんて見えない。しかも、この羽根をどうしろというんだ。そう聞く前に、鷲尾から説明してくれた。
 どうやらグリフォンの羽根とは、この世界の魔法アイテム的なものらしい。それを聞いて、俺はもうこの世界はRPGと思うことにした。その機能はと言うと、何処にいても鷲尾のもとにたどり着けるものらしい。俺がここに戻ってこれるように、ということだそうだ。しかし同時に、絶対に落としてはいけないものでもある。
「『戻ってこれるように』は助かるけど、まず公爵夫人の家はどこなんだ?」
「あ、そっか」さっきからこれが多い。こいつ、大丈夫なのか?
 鷲尾は斜め上を指差した。指を追うと、燦々と輝く、地球と同じ白っぽい色の太陽が見える。まぶしいけど、少し安心した。鷲尾がさしたのはその太陽ではなく、その下にある赤い屋根だった。雑草の色が真っ赤だから、あの屋根は深紅っていうんだろうか?色の概念に疎いから、そんな大雑把な表現しかできない。少なくとも、屋根ってことは建物だ。住居が一般的ではない中に見つかった建物ならば、きっとそこが公爵夫人の家なんだろう。
「あそこが公爵夫人の家だ。赤に仕えているから、屋根の色を最近赤色にしたんだと」
 後半の知識はどうでもいいが、ともかく予想は当たっていたようだ。