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その穴の奥、鏡の向こうに・穴編

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 瓶のふたを開けると、中でトーヴが跳ねまわった。なんて言うんだろう。なんか、ネズミとか、アナグマとか、そういう「生き物」よりも、毛糸屑が瓶の中で揺らめいてるように見える。
 クッキー、このままあげてもいいのか?いや、でも・・・。
 なんか、かわいそうだ。
 手を添えてから、瓶をさかさまにすると、毛糸屑はころりと落ちてきた。ちょこちょこと手のひらを動き回る感触がくすぐったい。
 このままでは大きいだろうと思い、クッキーを砕こうとトーヴの乗る手に近付けると、トーヴが興味を示した。本物の毛糸屑ではなかなか見られない、すっと立った姿勢だ。
「わ、ちょっと待てって」
「平気だろう。トーヴも肉食だ」
 肉食だから何だ。奥で笑いをこらえている状態の服部の言うことは、良く解らない。しかもぼろが出るかもしれないと思うと、下手に聞けない。追い詰められてるな、俺。
 手のひらで毛糸屑がもしゃもしゃとクッキーを食べ始めた。動物好きなら「かわいい!」と悶えるのかもしれないけど、俺にはクッキーに糸屑がぶら下がっているようにしか見えない。いや、動物が嫌いなわけでは決してないんだけど。
 少し手が疲れてきたので、そのまま腿の上に移して、手を後ろに着いた。そう言えば。
「なあ、服部」
 返事がない。寝たのか?また寝ちまったのか?寝るなら寝るって言ってくれよ?
 やっぱり返事がない。やっぱり寝たのか。